魔王様、溺愛しすぎです!
1004. 唐揚げ泥棒捕獲……?
リリスの促す声に、ルシファーは大きく頷いた。頬にいっぱい唐揚げを詰め込んだレラジェは罰として、ヤンがしっかりと捕まえておく。さっさと椅子についた2人は目減りした唐揚げを平げ、その途中でヤンの口に唐揚げを放り込んだ。パンに挟み、スープ付きで満足するまで食べた2人と1匹は、ようやく手を止めた。
「僕も……唐揚げ」
「みんなが食卓についてないのに、食べちゃダメよ。そういうの、卑怯なんだから」
リリスがびしっと指差して指摘する。意味合いとしてはわかるのだが、そこは卑怯とは違う単語が入る気がした。でも本人が満足しているので、ルシファーは口を噤んだ。うっかり指摘すると後が怖い。そういう事例をたくさん体験し、魔王は学んでいた。
「残してあるぞ。ヤン、もういいから離してやれ」
「我が君は甘いのです」
ぶつぶつ言うくせに、セーレ時代のヤンも我が子に甘かった。押さえていた前足を離してもらい、レラジェがルシファーに駆け寄る。自分に対して一番当たりの柔らかい人を見つけるのは、子供の才能だった。優しい人、物をくれる人、見極める能力は大人になると何故か劣化する。
「唐揚げ……」
「ほら、座って食べろ。先に綺麗にしてからだ」
レラジェの分は取り分けてある。別の皿に乗せた唐揚げを目の前に置いてやり、手で食べようとする幼児に浄化魔法をかける。手の汚れが取れたので、手掴みを許可した。リリスもそうだが、このくらいの頃は服や手を汚しながら食べるものだ。
子育て経験を生かし、ルシファーは鷹揚に構えていた。首から下を大きなハンカチで覆い、レラジェはひたすらに唐揚げを頬張る。喉に詰まる心配をしていると、お約束通り詰まらせた。背中を叩いて飲み込むのを手伝ってやり、ルシファーは懐かしさに頬を緩める。
「ルシファーは今、失礼なことを考えたでしょう」
リリスが頬を膨らますので、慌てて笑みを消した。
「いや、リリスはもっとお行儀が良かったと思っただけだ」
「そうよ。私はお行儀良かったんだから」
得意げなお姫様にくすくす笑いながら、レラジェに飲み物を渡した。慣れた手つきで面倒を見るルシファーが、顔をあげて部屋の入り口を見つめる。
控えめなノックの音がして、入室を許可すると……コボルトが集団で飛び込んできた。
「あああ! こんなところに」
「陛下に先に見つけられてしまった」
「遅かったね」
魔犬族の尻尾や耳がしょぼんと垂れる。レラジェ捜索を頼んだ彼らに、お礼の骨を渡す。大量に捕獲したコカトリスの骨だが、ぴりりと毒が舌に独特の感触をもたらすと、人気だった。ヤンも欲しがるので与え、骨を両手で握りしめたコボルトを労った。
「今夜の夕食はコカトリスの唐揚げだ。今日はもう仕事を切り上げて食堂で食べておいで」
促され、ベリアルを先頭に頭を下げて退室する。騒がしい彼らを見送ったルシファーは、開いた窓に頭を抱えた。部屋にレラジェがいない。
「ねえ、執務室の窓……レラジェが開けたんじゃない?」
あの書類の散乱は彼じゃないかしら。悪戯っ子なんだから! とリリスが憤慨する。しかしルシファーがあの部屋にいた頃から、冷たい風は吹き込んでいた。
「いや、違うと思うぞ」
レラジェが開けたというのは濡れ衣だろう。そう否定した足元で、ヤンが思い出したように呟いた。
「我が君と姫が仕事をしていた間に、レラジェが窓から入って窓から出ましたぞ」
ずっと足元に伏せていたヤンは、狼の神獣だ。聴覚は並外れていた。一度覚えた足音を聞き間違うことはない。ぱちぱちと瞬きし、ルシファーが開いた窓に近づいた。
最上階である3階の窓から飛び出したのか? 執務室もそうだが、子供が出入りする高さではない。それより……何をしてたんだ? 疑問が浮かんでは消え、また新たに浮かぶ。
「ほらっ! やっぱりそうだわ。もう許さないんだから!!」
自分もかなりお転婆娘だった事実を棚にあげ、お姫様はレラジェを捕まえると興奮状態だった。
「それは明日にしよう」
ぷくっと膨らんだ頬を指先で押して空気を抜し、彼女が大好きな薔薇を浮かべた風呂へと誘った。レラジェが何をしたかったのか謎だが、明日になれば解ける。またもやフラグを打ち立てた魔王は、お姫様の機嫌を取りながら黄色い薔薇を用意した。
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