魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

1001. お仕事が終わったら……ね?

 温かな温室は薔薇の香りが満ちていた。満開になった黄色い薔薇の茂みの前に用意された椅子に腰掛け、リリスを膝の上に座らせる。


 お茶菓子が並び、赤い紅茶が注がれた。ローズヒップティは少し酸っぱいが、色が気に入ったリリスがよくせがむ。そのため常にオレリアやエルフから差し入れが届いた。


「綺麗ね」


 蜂蜜を普段より多めに入れてリリスは笑う。向かいに腰掛けたイポスが頷く。そこへ大公女達が現れた。模擬戦を行なったのだろう、浄化魔法で埃や汚れは払ったが、まだ着替えていない。


「このような服装で申し訳ございません」


 ルーシアが丁寧に頭を下げるが、ルシファーは首を横に振った。礼儀作法にうるさい奴が不在なのだ。気楽に過ごせばいい。


「気にするな。呼びつけたのはオレの方だ」


 ルーサルカとシトリーが左に並び、右にルーシアとレライエが落ち着いた。珍しくレライエの婚約者が不在だ。


「アムドゥスキアスはどうした?」


「彼は洞窟の財産を数えに出かけました」


 なるほどと納得した。婚約者に渡す財産を調べに帰ったのだろう。視察も休止している今、レライエに危険が迫る可能性は低い。離れるなら今が最適だった。


「洞窟いっぱいなんでしょう? 凄いわね」


「聞いた話じゃ想像がつかないね」


 全財産を捧げるので結婚してほしいと懇願した翡翠竜の話は、この場にいる全員が知っている。ルシファーは苦笑いして誤魔化した。彼の財産がしまってある洞窟は、ひとつじゃない。レライエが想像するより財産は多いだろう。そもそも翡翠の鱗自体が高額で売れる上、結婚したら剥いで貢ぐと言った彼の覚悟は凄いが。


 死ぬほど痛いだろう。


 想像するのも恐ろしいと思いながら、彼女らの話に耳を傾けた。シトリーは温泉街のデカラビア子爵の息子グシオンと婚約している。手紙のやり取りと、休日に合わせてデートする話に女性達は盛り上がった。神龍なので空を飛んで会いに来るらしい。そういえば、城下町の噂で赤い龍の目撃情報があったが、あれがそうか。


 転移を使わないのは、独占欲が強い龍の習性だろう。まだ若いから転移座標の特定が苦手な可能性もあるか。話を聞きながら、お茶を口に運ぶ。リリスの口にお菓子を入れ、機嫌のいい彼女の黒髪を撫でた。


 婚約者が会いに来るのはシトリーだけではなく、ルーシアの婚約者も同じだ。風の精霊族であるジンも足繁く魔王城に通っていた。精霊族同士のため、デートは基本的に森の中が多い。先日は魔獣の子が落下してケガをしたところに通りかかり、親の元へ帰したそうだ。報告書にあった内容を当事者から聞いて、ルシファーは焼き菓子を齧る。


「ルシファー、私達……デートしてないわ!」


 突然思いついたようにリリスに指摘され、首を傾げる。


「そうか? 温泉街も、エルフの里も、神獣の森や湖も行っただろう?」


「全部お仕事じゃない! 視察じゃなくて2人きりで、デートがしたいわ」


 言われてみれば、確かに。すべて視察だったり仕事がらみの滞在だった。リリスの側近である彼女達か、護衛が常についてくる。何ならアスタロト以下、大公も付いてくるのが日常だった。


「デートか」


 2人で出かけても叱られない場所――人族が片づけば、ミヒャールだったか? 滅した人族の国の跡地にできた湖はどうだろう。魚が増えた頃一緒に来ようと約束したことを思い出す。


「新しくできた湖はどうだ? 今、近くをアスタロト達が掃除しているから……片付いたら出かけよう」


「本当?! 他の誰もダメよ。ルシファーと2人で行くって、アシュタに言ってね」


 一番最初に最大の難関の名を出すあたり、魔王城の裏の支配者をよく理解しているリリスであった。怯みそうになったものの、ルシファーは笑顔で約束する。


「もちろん大丈夫だ、仕事が終わっていれば1日や2日の休みは取れる」


「わかったわ。私もお手伝いする」


 主君と魔王の微笑ましい約束を、彼女らは笑顔で見守った。その約束がある意味、巨大なフラグを立てるお手伝いをしていると知る術はなかった。

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