魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

985. 通じる言葉と通じない声

 消えてしまった魔法陣に目を見開くイザヤに、ルキフェルは使い方を説明する。


「浄化の魔法陣。掃除に使えるし、手洗いの代わりにも便利だよ。浄化したい場所に魔力を流して、魔法陣を貼り付けるイメージで発動する。吸血種に使うと、本気で怒られるから注意ね」


 勇者アベルはもちろん、聖女候補だったアンナも魔力はそこそこ持っている。イザヤは巻き込まれだが、それでも魔力量は通常の人族より多かった。さらに魔王城という地脈が常に魔力を供給する場所に住んだことで、魔法を使うに十分な魔力が体内で循環している。


 人族の賢者とかいう魔法使いよりずっと使えるだろう。


「魔力を……流す」


「体内に温かいものが流れてない? それを指先に集めて外へ出す感じ」


 難しいことをさらりと簡単そうに説明するルキフェルは、生まれた時からある程度魔力を使いこなした天才肌だ。ルシファー以下大公は似たところがあり、魔力操作の説明がとにかく雑だった。出来て当たり前の呼吸方法を説明するのが難しいのと同じだ。


「お兄ちゃん、ルキフェル様。この女性だけ別に事情聴取出来ますか?」


「いいよ」


 軽く了承したルキフェルがぱちんと指を鳴らすと、女性だけ外へ出された。見た感じ手錠や足枷もなく、無罪放免に見える。その影響か、中に残された男が大騒ぎを始めた。鉄格子に詰め寄り、アンナに手を伸ばして掴もうとする。しかしイザヤの動きは早かった。


 常に身に帯びている剣を抜いて、彼らを牽制する。外へ出た彼女以外に用はない。はっきり示されたことで、男達は諦めた顔で後ろに下がった。鉄格子の扉を閉めて魔法陣で施錠する。


「カビ臭いし、外に出るね」


 軽い口調で牢を管理する門の衛兵に手を上げ、ルキフェルは階段を上ってしまった。慌てて黒髪の女性を連れて追いかける。中庭までは自由に入れるよう解放された空間であるため、アンナやイザヤも特に気にせず進んだ。


 指を鳴らして、大木の陰にテーブルセットを並べたルキフェルが座る。勧められるまま、3人も腰を下ろした。


「それで? 言葉は通じそう?」


「この方は日本語が通じます」


「……ふーん。同じ世界の子なんだ」


 興味なさそうな口振りで、ルキフェルは机に肘をついた。それから顎を乗せて覗き込む仕草をとる。失礼な態度だが、彼の立場はそれを許されている。子供姿だった頃から大公として民を守り、魔王ルシファーを支えた人物だった。


「その子は日本人預かりにするから手を出さないけど、言葉が通じない上に魔族に危害を加えた残りの人族は処分するから」


 仲間を殺されると目の前で告げても、黒髪の女性は微動だにしない。きょとんとした顔でアンナを見ている姿は、本当に言葉が通じていない証拠だった。にっこり笑いかけると、頬を赤く染める。うん、まったく言葉が通じてないな。


 きっちり確かめると、ルキフェルは本題に入った。


「僕とアンナやイザヤは言葉が通じる。これは最初からだけど……この世界の人族は言葉が通じるんだよ。それで、この女がアンナ達の世界から来たとして、どうして言葉が通じないのかな?」


 日本人3人は保護した当初から言葉が通じた。話ができ、意思疎通が可能な種族として受け入れたのだ。異世界から召喚された彼と彼女が帰らない選択をしたことで、ルシファーが許可した。日本人という新しい種族が認められる。その経緯に問題はない。


 ならば今回、同じ世界から来たと思われる彼女はなぜ話せない? 彼らの中で複数の言語があったとしても、この女が話した日本語はルキフェルに言葉として響かなかった。


 獣のような途切れ途切れの声に、価値を見出せない。問われて考え込んだ2人だが、先に口を開いたのはイザヤだった。


「これは通じるのか? 『今話しているのは英語だ』」


「英語って何」


 聞き取ったルキフェルが首を傾げた。

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