魔王様、溺愛しすぎです!
980. この世界でも反省は正座です
「あの……どうして足の上に、姫が?」
正座したルシファーの膝にお座りするリリスは、きょとんと首をかしげる。彼女はいつも通り、アスタロトに頼まれて座っただけだ。それがルシファーを苦しめている自覚はなかった。
「私がルシファーのお嫁さんで、ルシファーが私の旦那さんだからよ」
にっこり笑って、アスタロト直伝の返答を口にした。こうなるとルシファーは否定が出来ない。そのため大きく頷いて、痺れた足を必死に誤魔化し続けた。後ろで丸くなった犬サイズのヤンが、痺れを少しずつ散らしてくれるが追いつかない。
「リリス様、もしかしたら陛下の足が痺れてるかもしれませんね」
「あら、そんなに重くないわ。ね? ルシファー」
「……あ、ああ。軽いぞ」
間違っても重いなんて口に出来ない。しかも魔力を使いリリスを浮かせて誤魔化せば、さらに罰が与えられることを経験上理解していた。
「アベル、こういう時は見ないフリをするものよ」
腰に手を当てて呆れたと全身で示すアンナは、署名と押印を貰った書類を抱えて部屋を出ていく。慌ててアベルも運んできた書類を積み、処理済を受け取ってドアまで来て……振り返ってしまった。助けを求める魔王に「ごめん」と謝罪にならない一言を残して、走り去る。
「さて。反省されたようですから、あとは書類の整理をしていただければ結構ですよ」
あまりキツく叱ると、明日の予定に響く。アスタロトの透けてみる本音に顔を引きつらせながら、ルシファーは痺れた足を叱咤して立ち上がり、ヤンに支えられて執務机についた。じんじんする足を知らないリリスは、また膝の上に座ろうとする。
「リリス様、隣に椅子を置いてこちらをお願いしますね」
取り出した椅子を勧めてくれるアスタロトが、印章と特殊インクを渡す。今のリリスなら魔力を封じているので、インクをすべて消してしまう心配はなかった。
「これらは貴族家への承認書類になります。ここ数十年溜め続けた、家督相続関係の書類ですから……しっかり処理をお願いしますね。印章の向きはこちらです。朝までに片付けてください」
しっかり期限を切られ、リリスは安易に頷いた。
「わかったわ。アシュタは休んでいいわよ」
「ええ、ありがたく……お言葉に甘えさせていただきましょう」
アスタロトに手伝わせる案が消えた瞬間である。縛り付けた卵は、今もタオルの中で落ち着いていた。それを撫でながら、リリスは用意された椅子の上で押印を始める。中の文字をさらりと読んで、読めないとルシファーに尋ねるほど熱心だった。
「我が君、だいぶ治りましたか?」
「ああ、助かった」
突いたり揉んだり、痺れを改善するヤンがほっとした様子で机の下から出てきた。すると手招きされ、リリスの前でお座りする。
「押印するときに割るといけないから、預かって頂戴。温めるのを忘れないでね」
まともな理由で卵をヤンに預ける。包んだタオルごと咥えて運んだヤンが大きくなってから丸くなり、腹の前に置いた卵を温め始めた。微笑ましい光景のようだが、違和感が凄い。
「早くしないと朝になっちゃうわ」
「頑張ります」
隣のリリスにせかされ、ルシファーも書類を手に取った。ベルゼビュートの報告書……不備あり、再提出。横に避けて次の書類を読む。予算承認に押印が必要なので、署名後にリリスへ渡した。次はまたベルゼビュートの報告書、不備あり再提出――。
「半分は再提出だ。本当に数字以外はダメな奴だ」
再提出を求めても、どうせ同じ書類をそのまま提出するだろう。外回りで忙しいのだし……仕方ない。一度再提出の箱へ入れたベルゼビュートの報告書を戻し、手直しして処理済へ放り込んだ。その後もほとんどの書類が彼女の報告書であり、溜め込んだ未処理書類が一段落する頃……空は白々と明けていた。
毛布をショールのように巻き付けて眠るリリスを抱き上げ、ベッドに横たえる。今日は休みでもいいだろう。隣に潜り込み、彼女を毛布ごと抱き締めて目を閉じた。しかし脳内にベルゼビュートの読みづらい文字が踊り、奇妙な夢で魘されたとか……。
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