魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

968. 擁護するわけがないでしょう

 お風呂を終えたお姫様の髪を乾かし、甲斐甲斐しく面倒を見る。最近はアデーレも承知しており、朝の準備やドレスアップ以外は手出ししなくなった。


 濡れるとうねる髪を、ブラシで真っ直ぐに直しながら温風を当てる。乾いた髪に、椿油を含んだ柘植の櫛で潤いを与えた。いつも通り、美しい輪が浮かぶ黒髪を後ろで軽く結ぶ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 日課を終えて満足げなルシファーだが、純白の髪は魔法で一瞬だった。手をかける気がない主君が食事の席に着くと、呆れ顔のアスタロトが専用のブラシ片手に手早く結う。こちらも手慣れたもので、食事が並べられる時間内に終わらせた。


「食事をしながらお聞きください」


「いや……後にしてくれ」


 何とかして引き伸ばそうとするルシファーへ、アスタロトは笑顔で問うた。


「何か不都合でも?」


「えっと、その……食事中に難しい話すると消化が悪くなると聞いた」


 アベルに聞いた日本人の知識だが、この際使わせてもらおう。言い訳を頷きながら聞いたアスタロトの笑みが深くなる。これは悪い方へ足を踏み入れた気がした。


「消化……ですか。魔王であるあなたに、そんな心配が?」


 毒を盛られても瞬時に解毒する魔王は、状態異常からの回復が早い。そんな人が食事中に難しい話を聞いたくらいで、腹を壊すとでも? 尋ねる部下の強気な態度に、ルシファーは悟った。オレが風呂に入ってる間に、すべて把握されたのだ。これ以上の抵抗は、逆効果だった。


「わかった。聞こう」


 座れと示した向かいの席に腰掛けるアスタロトへ、ついでに食事に付き合えと合図する。そのつもりだったのか、ベリアルがアスタロトの前にカトラリーを並べて退室した。


「アシュタも一緒?」


「はい。ご一緒します」


 何ということだ、リリスを味方につけるとは。笑顔のリリスが「良かったわね」と口にすれば、ルシファーは「そうだな」以外の言葉が出てこない。これは厳しい案が出る予兆か。


「ルシファー、果物が欲しいわ」


「スープやパンを食べたらだ」


 膝の上に座らせ、魔力を使って引き寄せた食べ物を目の前に並べる。少しずつ全種類並べるのは、リリスがすぐにデザートの果物やケーキに目移りするからだ。フォークやスプーンを使って、一口ずつ含ませた。


 好き嫌いはないが、彼女は大好きな物から口をつける。そしてお腹がいっぱいになってしまうのだ。最低でもすべてを一口以上食べないとお菓子や果物は与えない。ルシファーのルールに、リリスは素直に口を開いた。


 少し大きめの肉を頬張ったリリスが、もぐもぐと口を動かして黙った。そのタイミングで、魚を解しながらアスタロトが口を開く。


「今回空から落ちた人族ですが、攻撃というより事故の可能性が高いですね」


「……っ、珍しいな。お前が人族を擁護するなんて」


「擁護はしません。事実を正確に把握して報告するのは、私の役職ですよ」


 ただし、報告内容を都合よく編集する可能性は口にしない。この辺がアスタロトの狡猾な一面だろう。今回の事件は、人族の攻撃と表現するにはおかしなことばかりだった。空から落ちた人族の大半は死亡しているし、集落から離れた森の中にも落下している。もし攻撃ならば、効果的に魔王城や大きな街を狙ったはずだ。


 見解を伝えて、ルシファーの表情を窺う。白身の川魚を一口含んだアスタロトの足元を、何かが駆け抜けた。眉を寄せて、口の中に残った骨を1本ナプキンの上に出しながら、テーブルクロスの下に目を凝らす。透視する能力はないが、魔力がある生き物なら感知できる。


「パパ、ママ!」


 見つかったと気づいた子供は、甘えるようにルシファーの足にしがみついた。


「レラジェ!?」


「……またお前か」


 リリスとルシファーの極端な反応に、アスタロトは苦笑した。

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