魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

967. 目覚めたのは側近か、危険人物か

 あれこれ弄って爆発すると危険なので、駆けつけたベールの指示で残りはそのままルキフェルの研究室へ転送された。なお、リリスとルシファーに関しては、過去の事例があるため身体検査した上での解放となる。


 ポケットに残ってた! あれ、こんなところに? と奇妙なものを持ち帰る習性がある。お姫様とその保護者の信用は、この場の誰より低かった。ダンスレッスン後、別の授業で分かれていた大公女から、ルーサルカが駆けつける。彼女はリリスの持ち物を確認し、ルシファーもベールに問題なしのお墨付きをもらった。


「よし、一緒にお風呂入ってご飯だ」


 ごたごたしている間に日が暮れたため、リリスと腕を組んで自室に引き上げる。人族の銃弾についての知識が欲しいと、アベルはルキフェルに引きずられていった。きっと今夜は徹夜だろう。明日のアベルの仕事を免除してやらないと……。


 忘れないようにお風呂に入る前に、ベリアルに言付けた。綺麗に修繕された最上階の奥、自室の扉を開いて閉じた。


「……どうしたの?」


「うん。お、お風呂後にしようかと……」


 薔薇の花でも愛でようと踵を返したルシファーだが、後ろの扉が開いて中から伸びた手に引き摺り込まれた。


「ぎゃあああ!」


「煩いですよ」


 ぴしゃんと閉じた扉、リリスは中で待っていた人物に頬を緩めた。


「アシュタ、起きたの? お休みは足りた?」


「ええ、お気遣い感謝いたします」


  一週間もせずに飛び起きるだろう。眠らせた時の予言通りの展開だが、羽を伸ばし切っていた魔王は顔を青くした。絶対に説教から始まる。


「ルシファー様」


「な、なんだ」


「お休み、ありがとうございました」


 ぱちくりと目を瞬かせ、微笑むアスタロトの血色の良さをしっかり確認して頷く。どうやら眠ったおかげで機嫌も良くなったらしい。


 無理をし過ぎなんだよ……そう心の中でぼやくが、ルシファーは口に出さなかった。もし言葉にしていたら、あなた方が無理させるんです! と叱られたのは間違いない。この一点において魔王の危機回避能力は、よい仕事をした。


「いつも忙しくて悪いな。明日から仕事に戻るのか?」


「そうですね。大公の手が足りず、ばたばたしているようですし。休んだ間の事件を把握したら、仕事に復帰します」


「ああ。頑張ってく……ん? 事件を把握?」


 それは拙い気がした。あれこれ事件が起きている。人族の襲撃もあったし、空から落ちて領地が荒らされたなんて知ったら……。全面攻勢を主張するに違いない。その案に反対する大公は誰もいないから、これは人族滅亡に繋がるのでは。


「落ち着いて聞いてくれ。いきなり人族を全滅させるのはダメだ。状況を把握してから動こう」


「よく分かりませんが、があったのですね」


 敬称で呼ぶアスタロトの、確認する口調に己の失敗を悟った。ルシファーの顔色が青を通り越して白くなる。血の気が一気に下がった。どうしよう、余計な興味を惹いてしまった。


「ルシファー、寒いのならお風呂入りましょう。お話は後にして頂戴ね、アシュタ」


「かしこまりました。リリス姫。では後ほど」


 引き留めた方がいいのか。一度退室してもらって策を練るべきか。迷う間もなく、アスタロトはあっさり出て行った。


 もしかして、すでに事態を把握してるんじゃないか? 


 疑惑を深めるルシファーを、リリスは笑顔で引っ張った。いつもと同じバスルームで、お姫様はいつもの要求をする。


「今日の薔薇はオレンジがいいの」


「それがリリスのお望みなら」


 あまりに普段通りの光景に、ルシファーは考えを一時放棄した。どうせ数十分後には嫌でも対面する話だ。いま悩むことはないだろう。温室から転送した薔薇の棘を消し、リリスに手渡す。花弁を浴槽へ浮かせたお姫様は、薔薇より華やかな笑顔で振り返った。

「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く