魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

958. 僕を化け物呼ばわり?

 魔の森に落ちた人族は魔獣により食い荒らされ、森の木々の養分となる。伸びた根や蔦が根元に引き寄せた手足が半分ほど土に取り込まれた状態を確認し、ルキフェルは次の地点へ飛んだ。これで20箇所を回り終えたが、どこも死体の処理は問題ない。


 稀に生き延びている逞しい人族も見かけたが、大した武器や道具もなく混乱しているので、長く保たないだろう。助ける義理はないので放置した。自然に起きた現象なら、自然の摂理に任せて淘汰されるべきだ。リリスの言う「穴に落ちる」の意味を、ルキフェルは都合よく解釈した。


 世界は人族を排除しようとして、魔獣や魔の森の養分として落下させている。つまりこれは自然現象であり、弱肉強食の掟に従って処理して構わない――と。


 地図に確認を終えた地点を記したところで、次の目的地にエドモンドの印がついた。緊急要請に応じた竜族や龍族が動き出したらしい。竜人族など半人の種族は、空を飛べない者も多かった。その点、獣化して生まれる卵生の竜や龍は翼を保有し、生まれつき飛ぶための魔力を備えている。


 数も多い種族なので、手分けしてもらえばチェックも早く終わる。見る間に数個所に印が浮かんだ。地脈の流れを利用し、情報を瞬時に共有する地図は、ルシファーの傑作品だ。ほんと優秀な地図だよね。感心しながら、裏に描かれた魔法陣を手で撫でた。


 ルキフェルが生まれる前に実用化され、今も活用される技術だった。魔王軍として動くベールや、単独行動が多いベルゼビュートの居場所を知るために作ったのが最初だ。その後改良が進められ、大公のように強大な魔力を持たない種族であっても、地脈を利用して通信できる現在の形になった。


「おっと……出番がなくなっちゃう」


 新たに2つ印がついたのを見て、羽を広げた。魔力で起こした上昇気流を利用して、旋回しながら高度を上げる。見渡す限り森が広がる風景は美しいが、木々の枝が折れた場所が散見した。あれが人族が大量に落ちたと思われる地点だ。


 風を受ける羽の角度を調整し、流れるように滑空した。舞い降りた場所は大きな穴が開いている。巨大な鉄の塊が落ちており、中に呻く人族が詰め込まれていた。すでに魔熊や狂鹿が集まり始めた森は、血の臭いに興奮した魔獣が様子を窺っている。


 上空の羽ばたきに気づいた魔狼が遠吠えで注意を喚起し、魔獣が一斉に姿勢を低くした。敬意を示す彼らに、人化したルキフェルが「楽にして」と声をかける。背の羽と頭の角だけ残したルキフェルは、ふわりと地上に降り立った。


 他の地点と違い、落下物の被害が大きい。木々の枝が大きく折れ、根本まで大きく裂けた木もあった。このまま魔獣が獲物を漁って帰れば間に合うだろうが、魔の森は周囲の動植物から魔力を奪うだろう。被害が出る前に供給してしまおう。


「少し魔力を使うから離れて」


 端的な指示に、魔獣達は素直に従う。鉄の塊に入った獲物を置いて、森の中に一度戻っていった。何をするか分かっているので、傷ついていない木々の根元まで下がると止まる。竜化した方が早いんだけど、別に急ぎじゃないからいいか。


 魔法を使ってしまうと魔力の一部が消費される。ただ魔力だけを放出して拡散させた。ざわりと木々が揺れて魔力を吸収していく。一瞬で木が再生され、折れた枝の先が蘇った。鮮やかな緑の葉が揺れ、木漏れ日を作り出す。根元が裂けた大木が身を起こし、傷を塞ぎ始めた。


「う、うわぁ!! 化け物だ」


「きゃあああ! 何、これ」


 後ろから聞こえた耳障りなに振り返り、魔物より下等と見做した人族を睥睨する。僕が化け物だって? そう見えるなら逆に光栄だよ。仲間に見做されないで済んでよかった。


 異形の姿を罵る数人は大したケガもなく動けるらしい。鉄の塊のドアらしき部分をこじ開けて飛び出した。血塗れで横たわる仲間の生存確認もせず、の前に放置するなんて……随分とご立派なことだ。


 忠告は必要ない。走り出した先で、身をひそめた魔熊が咆哮を上げた。悲鳴が重なり、すぐに音は絶える。逆方向へ逃げた獲物を、魔狼が群れで追いかけた。あちらもすぐに片がつく。くつりと喉を鳴らして笑ったルキフェルは、傷ついた森へ十分な魔力を与えてから鉄の塊を眺めた。


「これ……何に使う道具だろ」

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