魔王様、溺愛しすぎです!
955. 蒸し返した事件の謎
「どうしました?」
小さな籠を手に戻ったベールが首をかしげる。昨夜連れ帰ったルシファーが書類整理を行い、山と積まれた書類は半減した。時折混じる不備書類を弾きながら、執務室に篭る魔王の邪魔をしないよう、分類を終えた書類を見つめる。
「人族は、どうやって巨人族の街の近くまで移動したと思う? 空から落ちた理由もわからない。あいつら、体が脆いよね。落ちたら死ぬじゃん」
ずっと不思議だった。浮遊に関する魔術を使える者は、人族の魔術師にもいる。数は多くないが、実際に確かめたから間違いなかった。だけど自分を浮かせるのに精一杯のレベルだ。
あんな大人数を空に舞いあげ、降らせるとしたら……どんな魔術が適しているだろう。僕なら空中に舞い上げる竜巻、かな。
考え込むルキフェルの隣に腰掛け、お茶の支度をしながらベールが口を開いた。
「別の魔術を失敗した可能性はありませんか?」
転移先の指定を間違い、空中に放り投げられた。確かに考えられる。だが……ルキフェルが考えた竜巻と同じ、見過ごせない問題点があるのだ。
「僕なら竜巻で舞い上げるし、転移の到達点が空中にずれた可能性も……あるんだけど。どっちもあり得ないんだ」
「魔力量、か?」
ペンを置いて、書き終えた書類を積んだルシファーが立ち上がる。ちょうどドアが開いて、ヤンを連れたリリスが入室した。またノックを忘れている。注意するベールに「ごめんなさい」と素直に謝罪するが、明日もまた同じことをするだろう。リリスにとって、ノックは重要度が低い案件らしい。
ベールと並んだルキフェルの向かいに座るリリスの黒髪にキスをして、ルシファーが隣に座った。すぐに足元にお座りするヤンは、ペットの大型犬にしか見えない。森の獣王フェンリルは、誇り高い一族のはずだが。
「今日のおやつよ。上手に出来たの! なんと、爆発しなかったのよ」
嬉しそうに語るリリスに、ベールが驚いた顔で「爆発しなかったのですか?」と確認する。頷いたリリスが籠から焼き菓子を取り出した。向かいでベールは蜂蜜を籠から出して、机の上に並べた。2種類あるが、採取した花が違う。魔蜂が献上した蜂蜜は量が多かったので、小分けにしたのだ。
「開けてもいい?」
蓋を開けたリリスがくんと鼻で匂いを確かめ、目を輝かせた。
「薔薇の香りがするわ」
「ええ。城内の薔薇園で働く彼らが採取してくれました」
ベルゼビュートが作った薔薇園内で、花の交配や手入れを手伝いながら蜜を集める魔蜂は、地味だがあちこちで重宝される種族だった。小柄な体だが知能は非常に高く、時には警備も担当する。魔王軍の中にも特殊部隊に配属された魔蜂がいた。情報収集を行うのに、擬態の必要もないのが強みだ。
「ルシファー、後でお礼を言いに行きたいわ。ルーシア達に声をかけるから、温室へ行ってもいい?」
「ああ、ヤンとイポスも同行してもらえ」
魔王城内は、リリスを害する他者の心配がいらない。侍従や侍女の目も届くため、ルシファーはある程度自由にさせた。ルキフェルが迎えにきて2日目だが、まだ書類の山は平らにならない。もう数日は動けなかった。
「どうぞ」
話がついたタイミングで、ベールがお茶を差し出す。蜂蜜を入れることを想定したため、少し濃く入れられたお茶はハーブティーだった。すっきりした香りが印象的なお茶を口元に運び、リリスが頬を緩める。
「ありがとう、すごく美味しいわ」
「リリス、このクルミの入ったの美味しい」
もぐもぐと頬張ったルキフェルの褒め言葉に、頷いたリリスが1枚手にとった。そのままルシファーの唇に押し当てる。ぱくりと咥えたルシファーが咀嚼し、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「いつもより軽い味だ。蜂蜜の入ったお茶によく合う」
ふふっと笑ったリリスは、ルシファーが食べさせるクッキーを齧りながら、思い出したように話を戻した。
「それで、魔力量って何のお話?」
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
15
-
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
4
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
6
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
ガチ百合ハーレム戦記
-
15
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
12
-
-
悪役令嬢令嬢に転生?そんなもの知ったこっちゃないね!
-
4
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
ルーチェ
-
2
-
-
世界を渡る少年
-
32
-
-
外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
-
3
-
-
二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜
-
5
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
コメント