魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

948. 再会は予想外の姿で

 くしゃ……軟らかそうな音で崩れる球体は、二つに割れた。中から粘度の高い液体がどろりと流れ、地面を焼いた。じゅっと溶かす音を響かせて緑が茶になり黒に変色する。酸毒に似た鼻をつく臭いを、ルキフェルは結界で隔離した。


 採取して保管する手順は慣れた。危険な物体を数多く解剖して研究する部署を統括するルキフェルは、手早く臭いや煙を分離する。ふわりと漂った臭いに鼻をひくつかせ「酸性だ」と分類して収納へ放り込んだ。


 どろりと溶け出た液体から核を注意深く魔法陣で包み、活動を停止させる。赤く虹彩に見えた部分が核で間違いない。そのまま魔法陣を瓶に変えて収納空間へ入れた。これで変質の心配はないし、生き物だったとしても生命活動が完全に停止する。生き物を入れられない収納の特性を逆手にとった安全策だった。


「僕はこれを調べるから帰るね」


 新しい研究材料を手に入れた青年は、子供だった頃と同じに目を輝かせ浮かれた様子で笑う。


「危なくないの? ロキちゃん」


「もう平気だよ。収納内で呼吸も時間も停止すれば死ぬからね。生きてたら、それこそストラスの専門分野だし。研究所内は完全隔離してるから」


 緊急時は研究所ごと収納空間へしまえるよう、足元に魔法陣を刻んだルキフェルは笑顔で説明する。研究とともに死ぬなら本望と、志願する研究員は魔法陣を容認していた。そのくらいの心意気がなければ、休憩すら満足に取れない研究所に就職しない。


 未知の物体や症状を調べることと、己の命を秤にかけて前者を選ぶ強者ばかりの部署だった。危険なので、大公かオレが一緒でないと見学も許可されないリリスは、ふーんと生返事をする。あまり興味はないらしい。


「……ところで、ベルゼ」


 巻き毛を指先でくるくる直そうとする側近に声をかけると、慌てて直立不動の石像のように固まった。


「は、はいっ!」


「預けたレラジェはどこやった?」


 合流した時から連れていなかったが……面倒になってそこらに捨ててたら困る。ルシファーが指摘すると、リリスも手を叩いて「そうよ」と話に乗ってきた。


 リリスの後ろに控えるイポスが複雑そうな顔をする。好奇心旺盛で、次々とターゲットを変更する主君に振り回されるのはだいぶ慣れた。何か言い出しそうな予感に、黒髪が流れる背中をじっと見つめる。


「レラジェなら……ここですわ」


 ふくよかな胸の谷間に手を突っ込み、ベルゼビュートは1枚のカードを取り出した。説明が不得手な精霊女王は見て貰えばわかるとばかりに、カードをルシファーに差し出す。尋ねたのはリリスだが、安全確認が終わるまでルシファーは渡さないだろう。その判断は正しかった。


 少しぬくもりの残るカードを受け取り、裏と表を何度も確認してひらひら振ってみた。しかし何も起きない。ぴょんぴょんと背伸びして覗くリリスの差し出した手は、早く渡してと要求する。迷った末に結界に包んでからリリスに渡した。


「どうしてカードになったの?」


 ルキフェルの尋ね方は独特だ。どうやってカードにしたか、ではない。レラジェが自分でカードに変化したと判断した。その考えに至った途中を省いて答えを突きつけるのは、彼の癖だった。頭の回転が早く、一流の記憶力を誇るルキフェルは他人の考えを待つのが焦ったい。


 途中経過を省いて、答えだけ求める。外見と違い、変わらぬルキフェルの個性的な一面だった。リリスから受け取ったカードを撫でたり引っ掻いたりして確認し、軽く火で炙っている。


「ルキフェル、壊すなよ」


「わかってる。ちょっとだけ」


 そのちょっとで研究室は何度も吹き飛んでいるのだが、彼は一向に懲りない。好奇心の方を優先してしまう。危険なので、レラジェの姿絵カードを一度取り上げた。

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