魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

932. 森の警告と寝不足の朝

 森が揺れる――木々を揺らして、警告の意味を込めて。そのさえずりを聞きながら、リリスは眠る。腕に抱く少女の黒髪を撫でながら、魔王はゆっくり目を閉じた。


 もぞもぞと動く何かに気づき、欠伸をひとつ。なんだか夢見が悪かった気がした。リリスが起きたのかと目を開くと……黒髪が目に飛び込む。しかしその先にリリスがいた。瞬きして見間違いを疑うが違う。


「っ! お前……?!」


 ルシファーの小型版でリリスの色を纏う幼子レラジェは、きょとんとした顔で首をかしげる。手を伸ばし抱っこをせがむ姿は、赤子の頃のリリスを思い出させた。


「パパッ、だっこ」


「……状況が理解できない」


 昨夜は森がうるさかった。ざわめく森の音に寝つきが悪く、リリスをなんとか寝かしつけて休んだ。その翌朝に騒がしい幼児がベッドに入り込む。つながりが読めない上、意味が分からない。眉をひそめたルシファーはひとまず抱き上げた。


 ベッドの上に座ったルシファーに抱かれ、レラジェはご機嫌だ。リリスはまだ眠っているが、起きる時間まであと少し――そっと彼女の上に身体で影を落とした。カーテンを完全に開けていないため、漏れて入り込んだ朝日を避けるように寝返りを打つ。


 愛らしい婚約者の寝姿に表情を緩めながら、腕の中の幼児をあやす。ここで大泣きでもされたら台無しだった。レラジェはご機嫌で、ニコニコしている。


 ぐるりと周囲を見回したルシファーは、己が張った結界を確認した。隣の部屋はヤンとイポスが休んでいるはずで、交代で護衛の任についたはず……つまり侵入者がいれば彼と彼女が気づくのだ。レラジェは誰に運ばれてきたのか。


 純白の髪を握って揺らすレラジェに尋ねても、まともな返答は期待できないだろう。リリスを起こす危険性も高い。今は泣かせないようあやすことに専念し、ルシファーは思い出したように欠伸を追加した。なんとなく眠くて怠さが抜けない。


「……ん、シファー?」


「おはよう、リリス」


 声をかければ、同じように挨拶が返る。寝起きはすこし愚図るリリスが、もそもそと身を起こして抱っこを強請るように手を伸ばした。咄嗟にレラジェを横に下し、リリスを抱き留める。ぎゅっと引き寄せると、隣に下された幼子が泣き出した。


「うぁああああぁ! パパぁ」


 パパではない。誤解を招くような単語を泣き声にまぜるレラジェに「こら」と小さく叱るが、以前に呼んだ際に咎めなかったため、レラジェは言うことを聞かない。ごねて寝転がって、じたばたと小さな手足を動かし抗議した。


「……レラジェ? どうしたの、連れてきていいの?」


 視察に連れていきたいと言ったら却下されたのに、ベッドにいる幼児をリリスは不思議そうに見つめた。今頃になって誰かが連れてきたのかしら。そう呟くリリスに、どうやら彼女の仕業でもないとルシファーは内心で呟く。そうなると誰がやらかしたのか。


 魔王の結界を通過してベッドの腕の中にいたのだ。この幼子が自分で転移した可能性は極めて薄い。だがルキフェルやアスタロト達が送り込む理由もなく、威厳だのと騒ぐ大公が動く可能性はゼロだった。


「陛下、失礼いたします」


 幼児の泣き声に慌てたイポスが続き部屋のドアを開き、固まった。ベッドに座ったリリスは寝乱れて肩が出ているし、ルシファーに抱き締められている。その傍らで見覚えのある子供が泣きじゃくっていた。


「えっと……我が君、それは」


「わんわんっ!」


 指差して叫んだレラジェに、ヤンはムッとした口調で言い返した。


「犬ではありませぬ!!」


 ……そのセリフ、リリスの時も言ってたな。懐かしさに自然と表情が綻んだ。

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