魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

913. 友達以上恋人未満の手繋ぎ

 ルーサルカはアベル同伴で参加し、ついでに義父アスタロトも同伴となった。恋人候補と大公の2人と両手を組んで現れたルーサルカは、ある意味、この場でリリスに次ぐ最強女子だっただろう。魔王を叱り飛ばす側近は、新しい玩具を手に入れたことで上機嫌だった。


 アベルに関しても長くて100年ほどの寿命だと割り切り、我慢することにしたらしい。そこに妻アデーレの説得と脅しがあったのは言うまでもない。アデーレとアスタロトが折れれば、あとは当事者間の問題だけとなる。


 アベルはまだ告白イベントをこなしていないし、ルーサルカも返事をしていなかった。アスタロトにとって最高の状態である。他の貴族を牽制するため、勇者を恋人枠に据えたが実際は恋人未満だ。満面の笑みで現れた側近に、ルシファーが顔をひきつらせた。


 爽やかな朝の空気が台無しである。ルーサルカと友達以上恋人未満から始めることになったアベルは、そっと指先同士を絡める程度の手繋ぎに舞い上がっていた。


「陛下、1日お供させていただきます」


 カイムの処罰があるので、明日は一緒にいられない。そう告げたアスタロトに、ルシファーの表情は目に見えて明るくなった。


「そうか! それは残念だが仕方ないな」


 言葉と裏腹に晴れやかな声が出たことに、アスタロトは意味りありげに微笑む。びくっと肩を揺らしたものの、持ちこたえる魔王。意味が分からず愛想を振りまくリリス、空気を読んで怯えるアベル。様々な人間関係を凝縮した場面に、イポスは背後で溜め息をついた。


 敬愛する魔王陛下と魔王妃殿下だが……感情表現がストレート過ぎる。よく言えば表現豊か、別の言い方をするなら真っすぐで素直だろうか。後ろから見守る彼女は全体像が把握できるため、呆れ半分で助け舟をだした。


「こたびの騒動の主犯は、アスタロト大公閣下の処断を仰ぐとお伺いしましたが」


 すでに処罰は決まっているが、この場の大公女を含めまだ通知は出ていない。大公アスタロトが主犯の処罰を担当する話だけが、魔王軍経由で流れていた。それを同僚から聞いたイポスの言葉に、大急ぎでルシファーが乗っかる。話題を変えなければ危険な気がした。


「アスタロト預かりか」


「はい、竜族ならルキフェルの管轄になりますが……今回は魔王軍も絡んでいませんので、ベールも快く譲ってくれました」


 譲らせたの間違いだろう。そう思ったのはほぼ全員だった。ルーサルカすら引きつった笑みで義父を見上げている。


「こないだのパン屋で悪戯した子?」


 リリスにとって、あの少年は「大好きなパン屋で、美味しいパンを台無しにしようとした悪い子」程度の認識しかない。もし誰かが大ケガをする場面だったら、彼女は絶対に許さなかった。しかしパンも回収して人々のお腹に入ったことだし、その後の視察も楽しかったので根に持っていない。


「ああ、そうだ」


 相槌を打ち、腕を絡めたリリスの黒髪にキスを落とす。話題がずれたことにほっとするルシファーは、不自然な流れを見落としてしまった。


 魔王軍が出動すれば、捕えた犯人はベールの管轄だ。しかし今回は軍が出動していないから、アスタロトが引き取った。その理屈は、本来なら「ルキフェルの管轄だった」という部分をすっ飛ばしたことで破綻している。話の順番で、前半より後半の言葉が印象に残るよう操作したアスタロトは満足気だった。


「明日、カイム・エル・ドラゴニアの魔力を封じます」


 報告を兼ねてルシファーへ告げておく。頷いたルシファーは、故意に言わなかった後半部分を何となく察してしまった。アスタロトがわざわざ告知したのだから、そのまま終わるわけがない。封じるだけなら今日だってよかったのだ。それを何やら裏で準備している側近を見やり、仕方ないと溜め息をついた。


「一任する」


 一襲撃者を魔王が確認し、相手にする義務はない。大公4人の承認が取れているなら、それは魔王の決断と同価値があった。彼らに任せることにして、ルシファーは今夜行動を起こす気のリリスに意識を戻す。昨日遊ばせて疲れさせたので、夜は早い時間から朝までぐっすり眠っていた。


「今日から新しい街へ移動するぞ」


 移動の魔法陣を出して、その場の全員を包んだ。一瞬で転移した先は、多くの魔族が歓迎の旗を振る外壁の前だった。

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