魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

897. 褒められると頑張れます

 目覚めてすぐリリスの雷で叩き落とされた翡翠竜だが、その強さはルキフェルに次ぐ竜種最高峰だ。緑の膜により激痛を与え、苦しめながらも死ねない状態で捕獲したアムドゥスキアスは「終わったね」と呟き、するすると小さないつもの姿に戻った。


 小型犬程度で、婚約者が抱っこしやすいサイズだ。レライエの元へ飛んでいき、いそいそとバッグの口から中へ潜り込む。くるりと中で向きを変え、当然のように頭を出してレライエを見上げた。


 袋の中で尻尾を振っているのがわかる。褒めて欲しいのだ。よくやった、婚約者として立派に役目を果たしたと言われたい。表情に浮かんだわかりやすい要求に、レライエの表情が和らいだ。


 どんなに強くて規格外でも、こうして褒められるのを待つ犬みたいな彼を怖いと思わなかった。


「よくやった、さすがは私の婚約者だ」


 彼が望む言葉を向ければ、ぽっと頬を染めて嬉しそうに「きゅー」と鳴いた。それを羨ましそうに見ながら、アベルが戻ってくる。


「ちょ、っ! ケガはないの!? どこか痛くない?」


 戦いを見る限りケガはないと思うが、アベルは人族だ。寿命が短く弱い種族という先入観が拭えず、ルーサルカは駆け寄って彼の身体にぺたぺた触れた。痛みに呻く様子がないのを確かめ、血が流れる場所も見つけられず、ほっと息を吐いた。


「よかった……無事ね」


「心配、してくれるんだ? ありがとう」


 照れて赤くなった頬でぼそっと礼を言うアベルを、わずかに身長の低いルーサルカは見上げる形になった。本来、獣人は人族より大きい者が多いのだが、小柄な狐の半獣人であるルーサルカは他の獣人種より背が低かった。


 襲い掛かる敵から守ってもらった異性に、今更ながらルーサルカの頬が赤くなる。首筋まで赤くなる頃、彼の体を撫で回した事実に気付いて、精神が限界を超えた。


「あっ」


 膝から崩れて座り込みそうになったルーサルカを反射的に抱き止めるも、彼女なし歴が長いアベルも限界が近づく。ぷしゅーと音が聞こえそうな赤面状態に、ルーシアとシトリーが苦笑いした。


「意外とウブね」


「それがいいんでしょう? お似合いだと思うわ」


 目の前の危機が去った2人は、視線をパン屋に戻した。入り口に立つ主君リリスの魔力は、狭くないが広くもない店内を満たしている。何の魔法を使うにしても、詠唱も魔法陣もなしで発動するに十分足りる量だった。


 隣に純白の魔王が立ち、店中にイポスもいる。主君を傷つけられる心配はなく、フォローに回るため周囲でケガ人や被害を受けた者がいないか、確認を始めた。


「ケガしたり、被害を受けた方はこちらへどうぞ」


 受け付け始めた大公女2人へ、数人の男が駆け寄った。襲った犯人と同じドラゴン種だが、ルーシアは笑顔で応じる。差別なんて無駄なことに費やす労力はない。


「あの」


「何かありましたか?」


「ケガならこっちだ」


 治癒魔法陣を手にシトリーが手招く。修羅場慣れしたルーシアとシトリーを交互に見つめ、男はおずおずと申し出た。


「魔王様へ攻撃したのは竜だが、その……俺らにも手伝わせて欲しい」


「全部の竜が悪く思われるのは、嫌だからな」


 集まった連中が口々に申し出る内容に、きょとんとした顔をした後、ルーシアはくすくす笑い出す。


「ドラゴンが悪いなんて思いません。もし手伝ってもらえるなら、集まった街の人を守ってください」


 それが一番の貢献だと告げ、ルーシアはパン屋の前で怒りに肩を震わせる主君に視線を戻した。思い出の店だと言っていたから、今もきっと我慢している。それも長く持たないだろうけれど。


 言葉に出さなかったルーシアの予想を裏付けるように、リリスは大声で叫んだ。


「いい加減にして!」

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