魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

892. レラジェの預け先が問題です

「いけません」


 話は振り出しに戻った。きっちり禁止を突き付けたベールが、溜め息をついて言い聞かせる。


「魔王陛下と魔王妃殿下の婚約のお披露目に、子供がいたらおかしいでしょう? お2人の仲が良い様子を広めるのが目的です。わかりますか?」


 つまり、2人のほかに注目を集める存在がいてはいけない。その意味で絶対に、レラジェの同行は認められなかった。理解したルシファーが下を見ると、レラジェと繋いだ手を振りながら頬を膨らませたリリスがいる。しかたなく屈んで目線を合わせた。


「リリスが連れていきたいのはわかる、ベールが反対するのも……リリスは賢いから理解できるな? リリスとオレが主役なのに、レラジェは可愛いから目立ってしまうだろう? 誘拐されたり狙われたら可哀そうだ。もう少し大きくなるまで待とう」


 そこで一度言葉を切って、顔を上げたリリスの膨らんだ頬を両手で包み込む。絶世の美貌で誑し込む作戦に出た。これはアスタロト直伝である。


「オレは、可愛いお嫁さんを自慢しに行きたい」


 そこに外部の可愛い存在は不要だ。言い切ったことで、リリスの頬から少し空気が抜ける。そのまま両手で包み込むと、ぷしゅーと音を立てて頬が元に戻った。


「可愛い?」


「そうだよ、誰より可愛いオレだけのお嫁さんを自慢しに行くんだから」


 置いていこう。遠回しにちらりと視線を向けると、状況を理解しないレラジェはにこにことご機嫌だった。試しにリリスから預かって、ベールと手を繋がせても笑顔は変わらない。この服がよほど気に入ったらしい。幼児を抱き慣れたベールの腕に収まるレラジェは、満足そうだった。


「というわけで、今すぐ行くぞ」


「「「「はい」」」」


 慌てて駆け寄った大公女4人が手を繋ぎ、イポスが斜め後ろに立つ。魔法陣の上に飛び込んだアベル、中央で展開したルシファーはリリスを腕の中に抱き締めた。一瞬で彼らの姿が消え……静けさが戻る。


「やれやれ。出発の見送りだけで、ここまで騒動が……ん?」


 ベールの銀髪をきゅっと握り、にぱっとレラジェが愛らしい笑みを向ける。ルキフェルには懐かなかったが、ベールは問題ないのか。それほど着ぐるみが気に入ったのか。


「誰に預けましょうか」


 これから魔の森の巡回に出る魔王軍と行動を共にするため、ベールは眉をひそめた。さすがに軍の行動に指揮官が子供連れでは示しがつきませんね。かつてルキフェルを抱いて参加したことを、さらりと無視する。すでに大公だったルキフェルは「子供」に該当しないと除外したのだ。なんとも都合のいい幻獣霊王である。


「あら~可愛いわね~」


 罰ゲームの辺境周りから一時帰城したベルゼビュートが、突然中庭に転移してくる。ふらふらと近づき、子供の頬を突いた。大きな胸に誘われるのか、レラジェは手を伸ばして抱っこをせがむ。


「預けます」


「ええ、わかったわ」


 面倒を見る者が見つかるまで預けるつもりのベールと、今だけ抱っこするつもりのベルゼビュート。2人の認識の溝は深く、相互理解ははるか彼方だった。


「では任せます」


 さっさと抱っこさせ、幼児が豊満な胸を興奮気味に撫でる間に姿を消す。転移で魔王軍に合流したベールに首を傾げ、ベルゼビュートは幼児を抱いたまま自室へ戻っていく。その姿を見た一部の侍女達がひそひそと噂を始めた。


 ベルゼビュート閣下は、あの豊満な胸で魔王陛下と魔王妃殿下のお子の乳母になった――書類整理で閉じこもっていたアスタロトは、外に出るなり聞こえた噂に頭を抱える。数日後に戻るベールも話を聞き、同じように頭を抱えて溜め息をついた。噂はすでに尾びれ背びれ……民の娯楽となって城下町を潤していた。

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