魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

889. 甘すぎて吐きそう

「ルシファーも、いい加減リリスを叱ることを覚えてよ」


「わかってるが」


 我が侭を振りかざす姿も可愛いと思うので、無理に直させようと思っていない。騒動を起こしそうと考えたアスタロトとベールによって、リリスのストッパーが4人も選ばれたのだ。それ以上の措置が必要だろうか。


 唸るルシファーに頭を抱え、ルキフェルは溜め息をつく。黒に近い濃灰色の髪と赤い瞳、白い肌。見れば見るほどルシファーによく似た、リリス色の幼児を抱っこした魔王に自覚はなかった。


「ルシファーが甘やかすと、未来のリリスが苦労するでしょ。ベールが僕をどう育てたのか、忘れたの?」


「パパぁ」


「よしよし。……ベールの育て方に問題があったか? ルキフェルはとても良い子に育ったじゃないか」


 思わぬ切り返しに赤面したルキフェルは、ぐるると喉を鳴らす。それからぷいっとソッポを向いた。こちらも拗ねてしまったようだ。どうにも子育てに向かない性質なのだろう。肩を落として、ベッドに座った魔王の膝によじ登った幼児はご機嫌だった。


「パパッ! ママは?」


 どうして一緒にいないのかと騒ぐ1歳児の髪を撫で、溜め息をつく。


「今は一緒じゃない」


 遠ざけられたと口にした、ルシファーの沈んだ気持ちに同調したのか。目を見開いて驚いた顔の幼児は、いきなり大声で泣き出した。のけぞって涙で綺麗な顔をぐしゃぐしゃにしながら、じたばたと両手を動かす。暴れる子どもを落としそうになり、慌てて支え直した。


 当人は気づいていないが、いつの間にか「パパとママ」の呼び名を否定せず受け入れている。無自覚でも子育てした14年で慣れた腕は、幼児をあやしながら器用に抱き起した。ベッドから下りて窓辺に寄り、外を見せながら泣き止むよう誘導する姿は、リリスを拾った頃とは雲泥の差だった。


「ルシファー、私にも抱っこさせて」


 拗ねていた自分が大人げなかったと反省し、おずおずと声をかける。近寄ったリリスににっこり微笑み、ようやく泣き止んで指を咥える幼児を抱かせた。腕の位置や角度を直せば、大人しくリリスを見上げている。拗ねたように唇を尖らせて指を咥える姿に自分を映し見て、リリスは肩を落とした。


「あの……ごめんなさい。大人げ、なかったわ……」


「気にするな。リリスの我が侭は可愛い」


 にこにこと許すルシファーを見ながら、残ったお茶を一気飲みしたルキフェルがぼやいた。


「甘すぎて吐きそう」


「そのお茶、甘いのか?」


 見当違いの質問に、大きく首を横に振ったルキフェルは珍しく尻尾を出して寝そべった。べちべちと尻尾で床を叩きながら、不貞腐れた様子で3人を睨む。


「僕に懐かない上、ルシファーとリリスに抱っこされて……もう、2人の子でいいじゃん」


 ぶつぶつ文句を口に出すルキフェルが身を起こす。何か感じたのか、ドアの方を見つめるルキフェルが溜め息を吐いた。ノックすらなく突然ドアが開き、ベールが入室する。普段の彼らしからぬ不躾な所作だが、ルキフェルを見つけて表情を和らげた。


「子供と一緒に消えたと聞いて、心配しました。次から行き先は教えてください」


 無言で頷くルキフェルに、過保護なベールが親のように水色の髪を撫でた。仲のいい彼らの様子に、ルシファーはぼそっと本音を零す。


「いきなり飛び込むのはどうかと思う。次からノックして欲しい」


 先ほどのベールの口調に似た言い回しで注意すると、ベールは整った顔に笑みを浮かべて振り返った。アスタロトといい、彼らはなぜこうも笑顔が怖いのか。咄嗟にリリスと幼児を背に庇うルシファーが、結界を重ね掛けした。


「そうしておられると、リリス様があなた様の御子を産んだように見えます」


「そうか? そうだろう。リリスは可愛いし、この子もリリスによく似た色で……どちらも最高に可愛い」


 語録が足りなくなったルシファーは上機嫌になり、主君の部屋に突入した所業は誤魔化される。リリスとルキフェルは遠目に視線を交わらせ、苦笑いして保護者のやり取りに肩を竦めた。

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