魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

885. 一時帰宅した魔王城の変化

 温泉街での視察は多少のトラブルがあったものの、何とか最終日を迎えた。今回はほぼすべての種族を回る大規模な視察のため、途中で何度も魔王城へ戻る予定が組まれている。そのためドレスの交換や購入した品を部屋に置くことが出来るので、大公女達は「収納がぱんぱんで苦しい」状態を味わわずに済んだ。


「私達はここまでですわ」


 温泉街のみ同行のため休暇を取っていたアンナは、事務の手伝いで魔王城に勤める。イザヤは魔王城内の警護を行う部署に配属となった。兄妹でエリートコース確定だ。アベルはまだ複数の仕事の間で迷っており、最終決定はしていなかった。


「え? 帰ってしまうのは寂しいわ」


 リリスがしょんぼりした顔をするが、すぐにルーシアが近づいて囁く。


「リリス様、彼女らはお仕事をするんですのよ。邪魔してはいけません。リリス様の視察は遊びではなく、立派なお仕事でしょう?」


 仕事だからと言い聞かされ、なんとなく「大人扱いされた」と感じて目を輝かせる。こういう単純で純粋な部分はずっと変わらないでいて欲しい。目を細めながらルシファーは見守った。


「そうね。邪魔したらいけないわ」


 機嫌が直ったリリスは周囲をぐるりと見まわし、忘れ物がないか確認する。すでに荷物をまとめた大公女達と護衛、それぞれの婚約者達が集まってきた。微笑ましそうに彼女らのやり取りを見ていたアンナもイザヤと腕を組む。


「よし! 中庭に飛ぶぞ」


 全員が魔法陣に入ったか確認し、ルシファーは転移魔法を発動した。ちなみに、いつも忘れられるヤンは小型犬サイズでリリスの足元にいる。首に巻いた赤いリボンは、幼女のリリスが髪を結ぶのに使った短いリボンだった。後ろでリボン結びしてもらい、ご機嫌である。


 扱いがペットなのだが、ヤンは気づいていなかった。それどころか少女達に「可愛い」と褒めてもらい、しばらく小型犬サイズでいようと考える。ピヨと引き離されて落ち込んだヤンを見かねた少女達の作戦は、大いに効果を発揮していた。


 魔王城の中庭に到着すると、それぞれに挨拶をして荷物を片付けに自室へ向かう。ルシファーが手招きしたリリスは、抱っこされての移動となった。買ったばかりの靴が合わず、昨日擦り傷を作ってしまったのだ。すでに治癒魔法で傷はないのだが、甘やかしたいルシファーの首に腕を回したリリスは抱き着いた。


「おかえり……なさいませ、ルシファー様、リリス様」


 もの言いたげな間があったが、アスタロトは深く追求しなかった。珍しいこともあるものだと首をかしげれば、駆け寄ったドワーフに疑問を散らされる。


「陛下、陛下。部屋が直りました」


「魔王様、確認してください」


 ぴょこぴょこと飛び上がり興奮した様子で急かされ、苦笑いして彼らの後ろに続いた。吹き飛ばされた最上階へ向かう階段を久しぶりに踏む。軋みひとつない廊下を歩き、突き当りで足を止めた。


 新しい部屋を作る際、任せると告げたきりだった。あの爆発の直後は、ケガや爆発犯の特定やカルンの出現で大騒ぎになったためだ。実際にはルシファーが記憶喪失になった騒動も含まれるが、本人が覚えていないのでノーカウントだった。


「開けますぜ!」


 興奮した親方の一言で、ドアが外へ引かれた。中の様子を目にして、ルシファーは言葉を失う。リリスも驚いたように金瞳を見開いた。


「え?」


 思わぬ光景に間抜けな声が漏れた。

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