魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

877. 反省も償いも1人ではないから

 散々な目に合い、反省しきりの夜は更ける。朝まで眠れず起きていたルシファーは、朝焼けをぼんやりと眺めた。夜更けに隣室で悲鳴が上がったが、確かめる気も起きない。カーテンを閉め忘れたな……部屋に入ってくる朝日からリリスの目元を庇った。


 手で影を作ったが、それでも眩しく感じたのか。リリスは唸ってごろんと寝返りを打った。膝枕から腹に抱き着く形になったリリスは、そのまま再び寝息を立てる。散らばった黒髪を指先で弄りながら、最近の騒動を思い浮かべた。


 リリスを拾ってから、過去8万年を凝縮したような濃さで時間が流れた。様々な出来事が次々と襲い掛かり、立ち止まって考えを整理する余裕もない。そんな日々に慣れたせいだろうか。


 昨夜の騒動は、事前に止める事ができたはず。オレが結界をちゃんと展開していればよかった。預かったピヨから目を離さなければ、彼女が火を噴いても止められただろう。リリスを泣かせることもなく、祝ってくれた民の表情を曇らせることもなかった。


 自責の念が溢れて両手からこぼれ落ちる頃、頬に温かな手が触れる。伸ばされた手は包むように頬を撫で、その温もりの持ち主は穏やかに微笑んだ。


「おはよう、ルシファー」


「ああ、おはよう。リリス」


 いつもと同じ挨拶の中に、いつもと違う響きを感じ取ったリリスは寝転んだままルシファーを見上げる。


「もう痛くない?」


「っ……」


 声にならず頷いた。傷はベルゼビュートが治したが、心の中は悲鳴を上げる。それを伝える言葉が喉につまり、声にならなかった。察したのか、リリスはぽつぽつと言葉を探す。


「昨日、ルシファーが傷ついて……私は怖かったし痛かった」


 ここよ、そう言いながらルシファーの指先を自分の心臓の位置に重ねた。ぎゅっと押し付けたルシファーの手に、リリスは指先を絡めて繋ぐ。


「ルシファーがいないと、私に価値はないの」


「そんなことっ」


「黙って聞いて」


 反論を封じて、リリスはまるで年上のように笑った。普段の無邪気な彼女ではなく、別の誰かがリリスの口を借りて話しているみたいな違和感がよぎる。


「ルシファーを傷つけたのは、アラエル。でも彼は番のピヨを守ろうとしただけ。ピヨが火を噴いたのは祭りに興奮したからで、火を浴びせられたドラゴンが怒るのも当然……誰も悪くないの」


 静かに語る声に、ルシファーは小さく頷いた。


「皆が傷つかないよう間に入ったルシファーがケガして、私は混乱したわ。あなたを守りたくて、周りを傷つける可能性を見落としてしまった」


 己の言動を振り返るリリスの声に、自分の反省を重ねながらルシファーは目蓋を伏せた。さらりと流れた純白の髪を掴んで、リリスはぐいっと引く。


「だから反省して償うなら……今日は明るい笑顔を作って、街へ出るわ」


 結論を自ら出したリリスに、ルシファーは眩しそうに目を細めて笑った。開いた銀の瞳に映った黄金の瞳は、とろりと甘い色で溶ける。誘われるように額へ、目蓋へ、頬へ、そして最後に唇を重ねた。


「わかったよ。それが魔王妃であるリリスの出した解決策なら、オレは尊重する」


 意識のないリリスは知らないが、ルキフェル達が出した対策と同じ結論を出した。大きな騒ぎがあり、混乱をうんだ責任を取る。そのために彼らに「もう安心だ、何も心配いらない」と笑顔や態度で示す必要があった。


 魔王も魔王妃も傷つかず、この幸せはまだ続く。不安を抱く必要はないと――。


「そろそろロキちゃんが来る頃かしら」


 リリスの呟いた語尾にノックの音が重なり、2人は顔を見合わせて微笑んだ。叱られるのも反省も償いも、共にあるなら乗り越えられる。


「今いく」


 だから声をかけて、ルシファーは身を起こした。先に降りて指を鳴らして着替えを終えると、リリスへ手を伸ばす。素直にベッドから起きたリリスの黒髪を手早く整え、白いワンピースを着せた。桃色のボレロを羽織らせ、髪飾りをピンクで揃える。


「よし、今日も可愛いよ。リリス」


 行こうかと気合を入れて部屋を出るルシファーに腕を絡め、リリスはいつもの笑顔で「ありがとう」と返した。

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