魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

867. 絵がいっぱいの本

 買い物をすべて収納へ放り込み、手ぶらになった魔王行列は違う大通りを冷やかし始めた。大量の古書を見つけて買い込んだルシファーは、懐かしそうに目を細める。書いた人物を実際に知っているらしく、懐かしいと呟いて収納へしまい込んだ。


 後で「貴重な書物をしまい込むなんて」と側近に叱られないよう、きちんと魔王城の書庫に並べるつもりだ。その隣で、リリスは可愛らしい絵本を見つけて開いた。手書きの絵本はまだ新しく、一冊しか見当たらない。興味深そうに覗き込んだアンナが目を輝かせる。


「この本は漫画みたい」


 漫画と呼ぶには未熟だろう。コマ割りはなく、ただページいっぱいにイラストが続き物として描かれていた。次々とめくりながら読むリリスは、隣で別の本を漁るルシファーの裾を引っ張る。


「この本を買って! すごいのよ、たくさんの絵があるけど上手なの」


 魔族の各種族に伝わる童話のような寝物語を描いた話らしく、一つの話は短い。しかし絵を中心にしたため、一枚が伝える情報量が多く読みやすかった。


「いいぞ、この作家の本はもうないのか?」


 目新しい手法だと褒めるルシファーの前に、店主の老婆が数冊の本を差し出した。どれも同じようにイラスト中心だ。一番古い本は紙の縁が少し痛んでいるが、中は綺麗だった。


「私も欲しいです」


「読んでみたい」


 ルーサルカとレライエが興味を示すと、リリスが購入した最初の一冊を開いていたアンナが提案した。


「複製できませんか? 作家さんに複製した本の代金の一部が入るようにしたら、描いた方も喜ぶわ」


 ぱちくりと目を瞬いて、アンナの提案を考える。確かに手書きの一冊ではよい物を作っても一つ分しかお金が入らない。だったら複製すればいい。アンナの提案は、この世界では希少な意見だった。


 アクセサリーや服も、すべて手作りが当たり前。複製して販売する意識がなかったのだ。複製する技術は魔法陣ひとつで済む、手間を考えればそれは合理的だった。複製用の魔法陣は普段書類のコピーに使われるが、本そのものを複製すれば何冊も販売が可能だ。


 物理的な法則があるため、材料がない状態で複製すると魔力を大量に消費する。しかし材料を手元に用意していれば、複製自体はさほど難しくなかった。


「なるほど。一点物は価値があるが、複製品は安く良品を手にできるわけか」


 どちらを選ぶのも自由。安く済ませたいときは量産した複製品を使えばいいし、特別な買い物は一点物を選べばいい。目からうろこの考え方に、ルシファーは理解を示した。本を複製するためにじっくり観察し、収納から大量の紙とインク瓶を用意した。


「綴じ紐も必要ですね」


 近くの文具屋が猫の手で紙紐を差し出した。表紙に使われた紙は特殊な色紙だったので、今回は普通に白い紙でも構わないだろう。原本の保存状態は申し分なし。ルシファーがぱちんと指を鳴らして魔法陣を呼び出した。


 配布する書類の複製に使う魔法陣を少し弄り、本になるよう調整を行う。街中で突然始まった魔王の魔法陣披露に、魔族は目を輝かせて結末を見守った。


 魔法陣を地面に設置し、上に本を1冊置く。それからリリスが両手を魔法陣の縁に乗せ、魔力を流した。ぽんと隣に増えた本を手に取ったアンナが中を確認し、にっこり笑う。


「完璧です」


「すごいな!!」


「その本をくれ」


 あっという間に殺到した注文に、店主の老婆が慌てて販売を始める。複製品なので、材料費に少し足した程度の安価で販売が出来た。本は複製した側から売れていき、ある程度落ち着いたところでルーサルカ達も購入する。この場にいた希望者に行き渡ったのを確認して、ルシファーが原本を手に取った。


「原本は魔王城で買い取って保管しよう。この本の作者を知ってるか?」


 老婆はもそもそと歯切れ悪い。少しして覚悟を決めたように言い切った。


「書いたのは、あたしだよ」


 古い本を集めて販売する老婆は、読むうちに自分でも書いてみたくなった。しかし絵を描く方が得意だったことと、子供に手に取って欲しくてこの方法を編み出したのだという。複製する魔法陣を知らなかったため、1冊ずつ描いては手売りしてきた。


 突然の魔王と魔王妃の来店はもちろん、その後の大ヒットは予想外だったのだ。驚きすぎて何も言えないうちに、この本の重版が決まった。


「さきほど紙紐を出してくれた文具屋の猫獣人……君だ。こちらの本屋と一緒に複製して販売してはどうか。他の街でもヒットするぞ。宣伝はしておく」


 手を取り合って喜ぶ文具屋の猫と古本屋の店主が頭を下げる。リリスは嬉しそうに胸元に本を抱き締め、老婆と握手した。


「素敵な本をありがとう。これからも描いてね。新作楽しみにしているわ」


 感動した店主に手を振ったリリスは右手をルシファーに絡め、左手は本を抱いている。預かろうかと提案したが、首を横に振られた。早速宣伝する気なのだと気づき、ルシファーは好きなようにさせる。


 続いて訪れた飾り飴の店で購入した飴を右手に持つルシファーが、両手の塞がったリリスに差し出して飴を舐めさせる姿は話題となり、街中のカップルや親子が真似する光景が温泉街の流行りとなった。今回の絵本が大ヒットとなり、子供のいる家庭に当たり前に常備されるほど広がるのは、7~8年後のお話。

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