魔王様、溺愛しすぎです!
864. 強い魔族ほど幼い?
いきなり謝るルシファーに、リリスは少し俯いて聞いていた。自分の責任と言い切った時点でリリスが顔を上げる。金の瞳に涙を浮かべて、唇を噛んだ。
「ごめ、なさい。私がいけないの。ルカは止めたのに、私……あの花に触ってみたくて」
濃いピンクの花びらに惹かれて近づき、爽やかな柑橘系の香りに目を細める。それから無造作に触ってしまった。巨大な朝顔だと思ったのに、リリスを花びらに乗せた途端に花粉を吹き出す。
危険だと思わなかった。だから遊びの延長感覚だったが、戻ったルシファーがすぐに洗浄を指示したことで、害がある植物だった可能性に気づいたのだ。
魔王に連れてこられた直後、巨大な朝顔に襲われる魔王妃と側近達の図を見てしまった日本人2人は顔を見合わせ、脱力した。悪気なく花を弄って、毒のある花粉が吹き出した状況にアンナが口を開いて介入する。
「リリス様、それを学ぶための視察旅行でしょう? でしたら、騒動が起きた時に自分が楽しむのではなく、周囲が迷惑していないか確認してみたらいかがでしょう。今回みたいに花粉が飛んでいたら、危険かもしれないから結界を張るとか。リリス様なら、すぐ出来ますわ」
叱るだけではダメとアンナは考えていた。リリスは悪気がなく、無邪気で天真爛漫に振舞う。その性質はきっと直らないだろうから、最後まで責任をもって対応できる能力を伸ばす方が重要だと思った。多少の騒動を起こしても、被害をまき散らさずに片付けることが出来れば、少し叱られる程度で済むのでは?
アンナの提案に、リリスはぱちくりと大きな目を瞬いた。溜まっていた涙がぽろっと落ちる。それをハンカチで拭うルシファーは、苦笑いして頷いた。
「そうだな。アンナが言ったように、周りの人の反応を見た方がいい。騒動はどうしたって起きる。見たことがない、知らない植物や魔物に遭遇することもある。リリスは魔族で有数の強者だから、弱者を守る義務があるだろう?」
「わかったわ」
受け取ったハンカチで鼻までかんだリリスは、そのハンカチを収納へ放り込んだ。あとで回収しないと空間の肥やしになりそうだった。
「皆もごめんなさい。私の注意が足りなかったし、ルカが止めた時に考えるべきだったわ」
止めてくれた側近の言葉を振り払うのは、魔王妃らしくない。遠回しに注意された内容を、リリスは素直に受け止めて理解した。周囲が優しくしてくれるのは「ルシファーのお嫁さん」という肩書があるからで、ルシファーが築いてきた信頼の上に立っている。
信頼を築くには長い年月が必要だけれど、壊すのは一瞬で出来るのだ。ぺこりと頭を下げたリリスに、ルーシアは穏やかな口調で答えた。
「私は水の精霊ですから、植物に危害を加えられることはありません。ですが、他の方には少し留意していただけると幸いです」
「うん、本当にごめんなさい。ルカやレライエは平気だった?」
「「はい」」
レライエの肩掛け袋の中で、翡翠竜がくしゃみをする。くしゅんと響いた音に、リリスがハンカチを渡した。睨みつけるルシファーの威圧は、器用なことにアムドゥスキアス限定で発せられる。この大人げなさは魔王も魔王妃も大差なかった。
「……ハンカチありますので」
頷いてしまうリリスの後ろで、ルシファーが満足そうに頷く。彼らの様子を見ながらアンナは呟いた。
「もしかしたら魔族って、力の強い子供なんじゃないかしら」
長く生きた分老成した考え方を示す時もあるが、普段の行動は小学生レベルのような気がする。嫉妬も、やきもちも、愛情を求める姿も……気づいてはいけない場所に気づいたことに、イザヤは無言で額を押さえた。
日本人がこの世界に受け入れられた理由が「魔族の精神的な面でのサポート役」だったら? そんな懸念を抱きながら、賢い彼は絶対に言霊に乗せなかった。
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