魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

853. 魔王の65連敗

「あ、それは……」


「ルシファーって弱いのね」


 遊戯盤の前で、次々と黒が白に塗り替えられていく。このゲームを持ち込んだのは、日本人のアンナだった。イザヤも似たような陣取りゲームを提供したのだが、こちらはルールが難しかった。魔族は種族により教育や手足の状況が大きく異なるため、単純なゲームの方が好まれるのだ。


 囲碁を持ち込んだイザヤといい勝負を繰り広げたルシファーだが、アンナが提案したオセロで負け続けている。実戦で戦うにも、ルシファーに戦略はあまり必要ない。単体で強すぎるため、作戦が必要なかった。策略も人族ほどえげつない方法は少なく、正面切って戦いを挑まれる経験の方が多い。


 それでも陣取り合戦と揶揄された囲碁は、強かった。慣れたイザヤ相手に数回戦うと、すぐに勝てるようになる。さすがと煽てられた魔王だが――オセロになった途端、65連敗中だった。


「ひっくり返るのが、どうも……」


 今までにないゲームの要因が、裏返るというシステム。敵になったり味方になったりする駒が、どうにも理解しづらい。しかし単調なゲームなので、リリスや少女達はすぐに覚えて遊び始めた。あまり深く考えない方が勝てるのかもしれない。


「陛下にも苦手な物がありますのね」


 ルーシアがミントティーを入れながら苦笑いする。朝早くから菓子を焼いて準備したルーサルカが、焼き菓子を並べた。こっそりつまみ食いしようとしたアムドゥスキアスが、レライエに叱られる。


「片付けます、リリス様」


 シトリーが場を読んで遊戯盤を片付けた。大公女となった少女達は、リリスの呼び方を「魔王妃殿下」と改めたが、リリス自身が納得しない。話し合った結果、公式の場では「魔王妃殿下」と呼称するが、普段は今まで通り「リリス様」に決まった。


 リリスにしてみたら「一緒に勉強するお友達」を選んだはずの側近が、距離を置くようで寂しかったのだろう。そういう経験のないルシファーは、戦いに勝つことで魔王になった。側近も選んだというより、強者が自然と集った形だ。今のように仲良く過ごすまでに数千年を無駄にしたため、彼女らの話し合いを微笑ましく見守った。


 結論を自ら出した少女達に口を挟む気はない。


「ああ、そうだ。明後日から視察だから、収納の中身を整理した方がいいぞ」


 焼き菓子を摘まんでリリスに食べさせながら、ルシファーが大公女4人に警告した。というのも、アスタロトやベールのチェックが入る懸念からだ。着替えや得意な武器、緊急用の食料などを指折り数え、最後に付け加えた。


「正装は一式もっておけ」


「正装、ですか?」


 頷いたルシファーが過去の事例を話して聞かせる。


「今回は祝い事だから、持て成しの場に呼ばれるのは確実だ。立場上断れないから、参加は必須になる。オレのように収納空間にほぼ全部持ち歩くか、アスタロト達のように空間を操ってクローゼットから持ち出せればいいが」


 ルシファーが魔王の地位に就いて数千年ほど経った頃、まだ魔族の治世は手探りだった。各地を纏めるために貴族を設置したのもこの頃だ。そのため貴族に選ばれた者はその地位を世襲で守ろうとし、貴族に選ばれなかった者は奪い取ろうとした。


 貴族は種族の代表者で雑用係に近いと認識されるまで、根気強く大公や魔王が説明して歩いた経緯がある。もめ事を仲裁し、貴族の持て成しに応じた。いずれ落ち着くだろうと長い目で見ていたが、その間はどこへ行っても宴会、宴会、また宴会。


 その名残は今も残っており、上位魔族に分類される魔王や大公がくると持て成そうとするのだ。魔族の慣習なので、持て成しを断るのは失礼に当たる。そこで着替えが数セット必要だった。

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