魔王様、溺愛しすぎです!
842. お姫様の準備と七不思議
ルシファーからにじみ出る魔王感溢れる黒い感情を、さらりと流したルキフェルは焼き菓子をひとつ口に放り込む。この程度の殺気で怯えてたら、大公は務まらないよね。そんなルキフェルの態度に肩を竦め、ベルゼビュートは取り出したフルーツを口に運ぶ。
ベールとアスタロトはお茶にだけ手を伸ばした。大切に瓶へ焼き菓子を詰め直すルシファーは、真剣そのものだった。縁に当たって割れないよう、小さな転移を繰り返して1枚ずつ瓶の中に収納していく。世界最強の魔力量を誇る魔王の必死さが、奇妙な方向に発揮されるのは七不思議のひとつである。
「お待たせ……ルシファー、何してるの?」
続き部屋のドアを開いたリリスが首をかしげる。黒いドレスは首から胸元までレースで覆うタイプだった。露出が減った分をノースリーブにして補い、肩を出して大人っぽさを演出する。腰を高い位置で絞り、スカートは柔らかな生地を数枚重ねていた。
形状としてオーバースカートと呼ばれるものだが、巻きスカートのように前が開くデザインだ。黒い絹のスカートが膝下まで隠し、上から柔らかな生地を巻いている。歩くとひらひらと上のスカートが風に踊り、刺繍がされた絹の生地が垣間見えた。
背中部分に大きなリボンを飾っており、絹のリボンが細いウエストの両脇から覗く。肘の上まで黒いレースの手袋をする予定なので、レースやスカート形状のわりに露出が少ない恰好だった。白い足を包むサンダルは、金と銀のグラデーションである。
黒髪を緩く結い、零れ落ちる髪に銀鎖が揺れた。化粧はほんのり色づく程度だが、背伸びした少女に赤い紅がよく似合う。会心の出来だと微笑むアデーレを従え、リリスは首をかしげた。
「なんでもない。よく似合うよ、リリス。すごく綺麗だ。さすがはオレのお嫁さんだ」
お姫様、お嫁さん。その都度欲しい呼び方を使い分けてくれるルシファーに、にっこり笑って歩み寄った。歩くと風で開くスカートだが、刺繍が施された黒絹が見えると品がある。立ち止まれば柔らかなシフォンが垂れて足首まで隠してしまった。
レースの首元に飾る薔薇色の首飾りを受け取り、リリスの首にかけた。留め金をかけて手を離し、首飾りの角度を調整する。ピンクの宝石は半透明のため、黒が透けて色が暗くなることはなかった。
耳に飾るべきお飾りはまだ早い。ティアラを差した黒髪を魔法陣で固定したアデーレが回り込んで、黒い手袋を渡した。指先を出すタイプにしたため、つけても不便な思いをしなくて済むだろう。
「ルシファー、お嫁さんに相応しいかしら」
言葉ほど不安ではないのか。リリスは少し口元を緩めて尋ねる。愛らしい少女の確認は、あなたの隣に相応しい女かしらと問うているように聞こえた。黒いレースの手袋を嵌めたルシファーが手を止め、膝をついてリリスを見上げる。
「オレにはもったいないくらい、素敵なお嫁さんだよ」
囁いて手袋を嵌めた指先に接吻けた。後ろで見守る少女達が羨ましそうに、ほぅ……と吐息を漏らす。夢見るお年頃の少女にしたら、最強の魔王が跪いて愛を語る姿は理想そのものだった。もちろん、それぞれの婚約者を愛していても、憧れは別腹だ。
「素敵ね」
「私もこうやって求婚されたいわ」
「アドキスには無理だな」
ルーシア、ルーサルカ、レライエの呟きに、うっとりしながらシトリーが頷く。感極まって声が出ないらしい。彼女らも薄化粧を済ませ、結い上げた髪に細い鎖をアレンジして絡めていた。
「お披露目の時間ですよ、陛下」
アスタロトの声に身を起こし、ルシファーはリリスへ手を差し伸べる。乗せられた黒い手袋の小さな手を握り、腕を絡めた婚約者に頬を緩めた。
――今日のお披露目で、リリスは正式に魔王妃として認められる。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
3
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
10
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
16
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
11
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
深窓の悪役令嬢
-
15
-
-
聖女(笑)だそうですよ
-
6
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
14
-
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
11
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
7
-
コメント