魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

836. 御前会議は甘いお茶菓子付きで

 保護した女性や子供の名前をわかる範囲で記載した情報を元に、ルキフェルは書類をめくり始めた。魔王城の書庫に保管される資料は大量で、収納用の亜空間に保管される書類はさらに多い。ひとまず連れ去られた女性の年齢から推測し、ここ数十年分の記録をめくった。


 記録がなければ、さらに深い資料を掘り下げるか。または別の手を考えなければならない。大量の届出書を、検索用の魔法陣に乗せた。届出書に特殊インクでの署名や押印が行われないため、魔法陣の適用が可能なのだ。決済関係の書類以外はほとんど適用できるよう、特殊インクの使用は限られていた。


 乗せた資料から、いくつかの紙が弾き出される。それを手元に引き寄せて眺めるルキフェルの眉が、きゅっと中央に寄ってシワを作った。


「変だね」


「どうしました?」


 検索で弾き出された届け出は、行方不明者の捜索依頼ではなかった。女性や子供の条件に引っかかった書類はすべて『死亡届』なのだ。出生届が出ている魔族の死亡が確認された場合、街や種族の管理人である貴族への届け出義務がある。


 種の限界を迎えて消滅する一族や、逆に子だくさんすぎて育てられない種族が出た時の対策用だった。そのシステムへ生きた魔族の死亡届が出ているとしたら……?


「死亡者扱いになってる」


「また厄介事ですか」


 呆れ半分でベールが呟いた。稀に事件として浮上するが、禁止された人身売買や奴隷として売り払う獲物に関して、死亡届が出される。一部の地域に偏っていれば、文官が気づいて集計するのが通例だった。数千年に一度くらいの頻度で、こういった事件は起きる。


 人族ほどでなくとも、魔族に善人や悪人がいるのは当然だった。弱肉強食の掟が根付いているため、陰湿な虐めや醜い犯罪は少ない。逆に殺人件数は人族の比ではなかった。それらを管理するのが各種族の貴族であり、街を管理する貴族だ。


 死亡届が魔王城に保管されているなら、彼女らは書類上は生存確認できない。つまり、どこかで人身売買などの犯罪被害者となっても、救出対象にならないという意味だった。


「ふーん、いい度胸してるじゃない」


 弾かれた検索結果すべてに目を通したルキフェルの口角が持ち上がる。歪んだ笑みに含まれる、怒りの感情はベールも共感できるものだった。同じように目を通すベールも気づいている。同じ領主から上がった届出書が積み重ねられた事実に。


「どうしましょう」


 結論を委ねるベールがルキフェルの答えを待つ。その優しさに微笑んで、ルキフェルは肩を竦めた。積み上げた書類を右手にまとめて綴じる。


「決まってるじゃない。重要な情報は共有が大切なんだよ」


「ええ、さすがルキフェルです」


「明日までに片付けちゃう?」


 それも可能だと口にした瑠璃竜王へ、幻獣霊王は首を横に振った。ゆっくり楽しむことが出来なくなってしまう。アスタロトも同じように、後での処理を望むだろう。ベールの表情にくすくす笑うルキフェルは、羽虫の羽を千切る子供の残酷さで前言を撤回した。


「いいよ、明日のお披露目は彼らも祝ったらいい。最後のお祭りを楽しませてあげるくらいの、余裕があってもいいよね。僕たちは、魔王ルシファーの側近なんだから」


 アスタロトとベルゼビュートを召喚する前に、ルキフェルは収納から焼き菓子を取り出す。さきほどリリスと少女達が焼いたクッキーやシフォンケーキだった。傷ついた女性や子供へ贈る菓子を多めに作り、ルシファーや大公の分を配ったのだ。まとめて受け取ったルキフェルがテーブルに並べ、ベールが慣れた様子で数種類のお茶を用意していく。


「ルシファーを呼んで、御前会議をしよう」

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