魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

825. 勇者っぽい人?

「ささ、魔王陛下もどうぞ」


「姫、こちらのベリージュースが美味しいです」


 様々な種族が入れ代わり立ち代わり飲食物を運んでくる。ソファになったヤンに座り、取り出したテーブルに並べられた料理を次々と口に運んだ。


「助かる」


「ありがとう」


「わざわざすまない」


 その都度挨拶を口にして微笑むため、男女問わず魔王ルシファーの前に行列ができた。いつの間にか椅子を用意した大公達も、同様に食料を持ち込まれる。民や貴族の間で「魔王様達を休ませる会」が発足したと、オレリアが笑いながら教えてくれた。


 今日はこの場から出来るだけ動かず、民の運んでくるご馳走を食べるのが仕事のようだ。リリスは笑顔を振りまきながらお菓子やジュースを受け取り、ストローをルシファーの口元へ差し出した。


「ルシファー、これ美味しいわ」


 うっかりしたその一言で、同じジュースが大量に運ばれてくる未来をリリスは知らない。差し出されたストローを使い飲んだルシファーが微笑み、「本当だな、分けてくれてありがとう。リリス」と口にしたため、卒倒するご令嬢や奥方が数名見受けられた。


 魔王の整いすぎた顔は凶器に近い。ルキフェルやベルゼビュートも含め、大公4人も身動きを制限されていた。


「不思議と居心地が悪いものですね」


「そうなんだよ、悪気がないから余計に」


 アスタロトとルキフェルの会話に、ベルゼビュートは用意した長椅子に足を投げ出して首をかしげる。足元がめくれてはしたないとベールに足をテープでぐるぐる巻きにされたが、気にした様子はなかった。それこどこか、長椅子から下りない理由が出来たと喜ぶ有様だ。


 大公で唯一休みを満喫する彼女の図太さに、男性陣は苦笑いして諦めた。


「そう? せっかくの厚意ですもの。素直に受けるべきよ」


 平然と転がる彼女は、ひざ下から足首までドレスごとテープ巻きにされている。美しく表現すれば人魚風だが、どう見てものたうつアシカである。スタイルがいいため、目の毒でないのは救いだった。くつろぐ理由のテープを外さないあたり、彼女はさぼる天才なのだろう。


「ベルゼらしい」


 苦笑して流したルシファーだが、リリスはじっと遠くを見ている。城門前の広場は半分以上が日陰になり、過ごしやすい木漏れ日越しの明るさが維持された空間だ。その向こうへ目を凝らしたリリスが「あ、勇者っぽいのが来たわ」と声を上げた。


「勇者ですか?!」


 ベールが慌てて立ち上がろうとするが、ルキフェルがリリスの言葉尻を捕らえて眉をひそめる。


「勇者っぽい?」


「勇者ではないのですか?」


 ルキフェルとアスタロトの疑問に、リリスは見つめていた一点から目をそらした。それから何でもないことのように、さらりと告げる。


「ええ。勇者じゃなくて、勇者っぽい人達よ」


「……つまり、人族お得意の偽者ですか」


 溜め息をついたアスタロトが立ち上がる。話を聞いていた竜族のエドモンドが慌てて止めに入った。焼肉のトングを掴んだまま、必死に両手を広げてアスタロトを遮る。


「大丈夫です。我々魔王軍が対応しますから、こちらでお休みください。今日は動かないでください」


「そうですぞ。折角の持て成しですゆえ、ゆったりしてくだされ」


 神龍族の長老モレクも止めに入ったので、仕方なく腰掛け直す。そこへ大皿に乗った焼肉が運ばれた。大喜びで手を伸ばすベルゼビュートが、菜箸に似た長い箸で上手に口に放り込む。熱かったようだが飲み込み、目を瞬かせた。


「あら、美味しい。この肉……唐揚げじゃないコカトリスだわ」


「タレに漬けてから焼きましたの」


 どうやらルーサルカの発案らしい。褒められた彼女が嬉しそうに、同じ肉を小皿に取り分けてアスタロトに差し出す。他の大公も同じように新作肉を並べられ、大人しく魔族の厚意に甘えることにした。


「美味しいですね。さすがはルーサルカです」


 褒めるアスタロトに、ルシファーが「ルカって呼んでやれ」と水を向ける。少し言い淀んだものの、アスタロトは素直に「ルカ、ご馳走様です」と口にして、冷やかしたベルゼビュートが凍り付いたのは余談である。

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