魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

821. 即位記念祭の続き

「即位記念祭はどこから続きをやるの?」


 ふらりと部屋に押し掛けたベルゼビュートの問題提起で、リリスと朝食を楽しんでいたルシファーが首をかしげた。お姫様は皮ごと食べられる葡萄を噛みしめている。口が空いたタイミングで、次の粒を唇に押し当てられ、ぱくりとまた口に入れた。


 リリスに給餌行為を続けながら、ルシファーもリンゴを口に放り込む。しゃくしゃくといい音を立てて食べる姿につられたのか、空いた椅子に座るベルゼビュートが柑橘を齧った。


 しばらく食事が続き、思い出したようにルシファーが提案する。


「昨夜は星降祭りだったんだから、その続きからでいいだろう。6日目はあれか、子供達のお披露目だろう」


「それは昨日でしたわ」


 リリスの時のことを思い出しながら呟いたルシファーに、ベルゼビュートが首を横に振る。それから彼女も前回の記憶をたどった。


「お遊戯会でしたっけ? 劇を見て火事になったのは……」


「あれは卒園式だ」


「そうでしたわ」


 長生きしすぎると時間の感覚が曖昧になる。互いに行事を連ねていくが、どれも違っているようだ。そこへ朝の挨拶に来たシトリーが巻き込まれる。彼女は幼馴染みと朝まで過ごさないよう、預かった魔王城の威信を保つために、リリスの言いつけを守って顔を出した。夜更かししなかったという証明代わりだ。


 行事に関しては記憶があやふやなまま議論するより、ルキフェルを呼んで尋ねることとなった。


「前回は赤黒蛇と格闘したんじゃなかった?」


「それは行事ではないな」


 二度とサーペントを見たくないルシファーの眼差しは鋭い。肩を竦めたルキフェルは、研究で夜更かしした目を擦りながら、ひとつ欠伸をした。


「一般的には民を中心に行事が組まれて、魔王と大公がゲストに呼ばれてみて歩くんだよ。いわゆる屋台のイベント版。貴族もあれこれ行事を計画してたみたいだけど、こないだの騒動で……予定が狂ったんじゃないかな」


 用意していた材料がダメになったり、それどころじゃなくて練習していなかったり。とにかくイベント自体が危うい。そう指摘され、この数日の騒動を思い浮かべて納得した。


「あ、そうそう。海から持ち帰った三角の頭……あれ、頭じゃないみたい。脳がないんだよ」


「解体したのか」


「明け方までかかったけどね。食べられそうだよ」


 ふらつくルキフェルを心配してついてきたベールが、「食用でしたか」と呟いた。いや、食用じゃないだろ。見た目的にグロい。そう抗議したいルシファーだが、無言でリリスの口に苺を運ぶ。今発言するのは命の危険を感じるタイミングだった。


 リリスは大人しく頬張った苺を飲み込みながら、膝の上でじたばたと足を揺らした。少し酸っぱかったらしい。甘い葡萄を続けて食べさせ、頬を両手で包んだリリスの愛らしさに口元を緩めた。多少現実逃避している間に、物騒な相談が続いていた。


「アベルだったかな、イザヤだったかも。とにかく日本人の知識によると、あれは頭じゃなくて胴体の一部っていうか。泳ぐのに必要なヒレみたいなものだって。僕の翼と同じかも」


「ルキフェルの羽はもっと立派で高尚なものですよ」


 同じにしてはいけません。なぜかベールが意味不明な擁護をする。見ないフリで聞き流すルシファーだったが、突然リリスが手を叩いて目を輝かせた。


「食べられるなら、皆で味見しましょうよ! イベントになるし、民も喜ぶわ」


 喜ぶかどうか……ちょっと微妙。ルシファーとシトリーの目くばせに気づかないリリスは盛り上がり、ルキフェルは研究者故の探求心で「僕、協力するよ」と同意してしまった。止めてくれる筈の魔王城の良心は、愛し子の暴走に目を細め「ルキフェルは研究熱心ですね」と微笑む。


 魔王城の理性であるアスタロトがいない場で、想定外のイベントが立ち上がろうとしていた。

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