魔王様、溺愛しすぎです!
812. 正義の味方参上?
叫びながら疾走してきた人影が、勢いを殺さずに剣を抜いた。そのまま刃を滑らせるようにして、ルーサルカを脅す男の腕に滑らせる。すぱっと切った腕が転げ落ち、男が悲鳴をあげて蹲った。
「ルーサルカちゃん、大丈夫? ケガしてない?」
「あ、ありがとうございま……あああ! 荷台の中に」
「イザヤ先輩が向かったよ」
だから問題ないと言いながら、アベルは長剣を直接地面に突き立てた。鞘が長く背に負っう形のため、まだ戦闘が終わらない状況で片づける気はないのだ。魔王ルシファーに贈られた剣は、名のある聖剣ではなかった。銀に金の光を纏ったような、淡い色合いが特徴のオリハルコンは持ち主を選ぶ。
切り裂いた敵の血を一瞬で燃やした剣は、美しい刀身を月光に輝かせた。装飾が多く実践向きの剣に見えないが、これは一時期ルシファーが愛用していた正真正銘の実戦用の長剣だ。
荷台の中で鈍い音がして、ルーサルカはびくりと肩を震わせた。さきほど杖で殴られたアミーを見ている。また殴られたのではと心配そうに眉じりをさげた彼女の目に、黒髪の青年が現れた。イザヤは上着で包んだ子狼を左腕に抱き、右腕に短剣を下げている。幌を切るのに使ったのだろう。
「まだ首輪がついているが、大きなケガはなさそうだ」
「助かりました、ありがとうございます」
荷台を飛び降りたイザヤが、抱いた子狼アミーをルーサルカの腕に移す。がたがた震える子狼はしっかりと爪をたてて、ルーサルカの胸元にしがみついた。
「なんだろう、羨ましい」
「お前は……そういうところだぞ、女性にがっつきすぎる」
ぽんと軽く頭を叩かれ、アベルは肩を竦めて剣の柄を握った。そのまましまうのかと思いきや、アベルの腕は再び剣を構える。じっと街道沿いの茂みを睨みつけた。
「もうバレてる。出て来い」
自信ありげに言い切ったアベルの斜め後ろで、イザヤが短剣をベルトの鞘にしまって長剣を抜いた。
「ルーシア嬢、こちらでルーサルカ嬢を守ってくれ」
イザヤの要請に2人の少女は顔を見合わせた。魔力で敵を感知するルーシアは目をこらすが、その場に不審な気配はない。張った結界ごと近づいて、ルーサルカを庇う位置に立った。それを確認して、イザヤとアベルは茂みに剣先を突き付ける。
「わかる?」
「ぜんぜん」
魔力を探るルーシアも、匂いで感知するルーサルカも首をかしげる。しかし日本人達が頼ったのは、いわゆる気配と呼ばれるものだ。魔力を知らない異世界人である人族がもつ、第六感のような察知能力だった。
ぶわっと全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、アベルが目の前に氷の壁を作る。直後に叩きつけられた青白い炎が氷を侵食し、徐々に穴をあけた。
「やべっ、もたないかも」
アベルが叫んだ声に、後ろから返事があった。
「加勢するわ」
自分たちに張っっていた結界を解除し、代わりにアベルの作った氷の壁に干渉する。内側に新しい氷の結界を張りながら、溶けかけた氷に魔力を注いだ。
「炎なら、これも効果ありそう」
ルーサルカが大きな筒状の壁を作り出す。正面の敵がいる部分を残し、氷の壁と合体する形で土の壁を立ち上げた。これで後ろや横から攻撃される心配は減る。向こう側が見えない欠点はあるが、今の状況で出来る最善の策だった。
「……っ、思ったより強い」
他人の作った魔法の壁に干渉するため、魔法陣が使えなかったルーシアが顔をしかめる。敵の炎は青白い。高温の炎を防ぐ魔力の消費は激しく、あまり長くもちそうになかった。
苦しそうな友人の姿に、ルーサルカはひとつ深呼吸して覚悟を決める。
「最後の手段があるわ」
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