魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

809. 狙いは子供か、人狼か

 がたっと立ち上がっって扉に向かおうとしたゲーデに、ルシファーは落ち着くよう言い聞かせた。


「手は打ったから、アミーは無事だ。まず座ってくれ」


「大丈夫よ。ルカは匂いを追えるし、シアは魔法が得意なんだから。ちゃんと連れてきてくれるわ」


 リリスが鈴のなる様な声をかけると、困惑顔ながらも再び椅子に座った。人狼である彼にとって、我が子アミーは唯一の家族なのだ。心配するのは当然で、狙われたと聞けば取り乱すのが普通だった。


「狙われるって、誰に、ですか」


 驚きすぎて声が震えるゲーデに、ルシファーは出来るだけまっすぐに伝えた。湾曲に柔らかく伝えても、彼は真意を悟るだろう。ならば言葉を飾る必要はない。誠実に向き合う姿こそ、彼との信頼関係を築くにあたり重要な方法だった。


「妹を名乗った人物だ。おそらくゲーデとは何の血縁もない者だろう。祭りに来る様に勧めたのも、その人か?」


「……祭りは自分の意思で来た」


 森の奥に隠れ住む生活は、自分は何も不満がない。しかし幼い我が子を孤立させ、友人を作る機会を奪い、新しい知識を得られるチャンスを潰すとしたら……ゲーデなりに我が子を思っての勇気だった。


「ならば、オレ達のせいかも知れない。すまない、ゲーデ」


 魔王という魔族の最高権力者が、誤魔化さずに頭を下げた。誰かのせいにすることも簡単な立場で、何も知らないゲーデを騙すことも出来るのにしない。だから怒れなかった。


「……事情を教えてくれ。俺にはわからないんだ」


 まだ状況が飲み込めていないから、すべてを聞いてから判断しようと尋ねる。獣の顔を持つ彼の口元が大きく息を吐き出した。


「ゲーデの妹を名乗った女は、まずお前を魔王城から出るよう仕向けた。なぜなら魔王城の警備は厳重で、祭りの最中であっても手が出せないからだ」


 祭りの期間中は城の出入りが緩くなるとはいえ、ルシファーが与えた客間の場所は外部からの立ち入りが制限されたエリアだ。そのため手紙などで家族を装い、彼と息子を外に連れ出そうとしたのだろう。まんまと誘い出されたゲーデは、言われるまま用意された宿に泊まる。


「用意した宿に泊まれと言った女は、この時期に宿が取れないことを知っている。ゲーデが宿だと思った家は、民家である可能性が高い。そしてゲーデが混乱して向かってくるよう言葉巧みに操る。息子を預かるといえば、絶対に置いて出るから」


「アミーが危ないというのは、そのことか!」


 また飛び出そうとしたゲーデに、ルシファーは根気強く話しかけた。


「いま、アミーの保護はルーサルカとルーシアに任せている。彼女らは魔王妃の側近として選ばれ、専門の教育を受けたプロだ。任せてくれ。必ず無事に連れ帰る」


「……何から何まで、本当に助かる」


 ぺたんと椅子に座るゲーデの尻尾は、床までだらりと垂れていた。自分の不甲斐なさと騙されやすさに、衝撃を受けたようだ。


「続けるぞ」


 声を掛けた視線の先で、レライエがお茶の道具を取り出した。翡翠竜が膝からテーブルに移動して、ポットに水を満たして沸かす。手際良く用意されたお茶を、ゲーデの前に差し出した。


「火傷に気を付けて飲め」


 ルシファーが注意したのは、獣の鼻を持つ外見からして、魔獣と同じように猫舌の可能性を考慮したためだ。湯気が立つカップを手にしたゲーデは、息を吹きかけて冷まし始めた。魔法は得意ではないらしい。


「アミーを狙ったように見えるが、ゲーデが標的の可能性も高い。人狼は珍しいだろう? 魔族の中にも、希少種を捕らえて飼い慣らそうとしたり、奴隷のように扱う連中もいる。……悲しいことだが、取締りを逃れる奴らも存在するんだ」


 自分の至らなさを口にし、ルシファーはひとつ息をついた。そんな婚約者の姿に、リリスは黙って頷く。そこに否定も肯定もなかった。

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