魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

805. 一緒に選んでください

 アンナは大急ぎで花飾りを確認すると、そこから1本抜いて兄の胸元に飾った。本来は女性が「恋人はいる」と示す花だが、同じ花を飾ることで「私の男」と主張したのだ。


 妹の機転に頬を緩め、イザヤは促すアベルの後ろに続く。腕を絡めたアンナも一緒に歩を進めた。レンガ造りの小道は少し狭く作られており、並んで歩くと狭い。そのため胸を兄の腕に押し付ける形になった。


「アンナ、ちょっと……その」


 押し付けすぎで、いろいろ問題があると告げるイザヤに、アンナも気付いて頬を染めた。照れながら少しだけ身体を離す。


「ご、ごめんね」


「嬉しいから困る」


 まだ清い中の初々しいカップルのやり取りに、アベルは「くそっ、羨ましい。僕だって」と呟く。家の前に候補はいるのだ。


 近づいた玄関から、純白の魔王が姿を見せる。


「ああ、呼び立てて悪かった。実は……」


「説明はアベルの仕事よ」


 にっこり笑ったリリスに止められ、ひとまず部屋に入る。毎日のように行き来して一緒に食事もしているので、居間の状況はわかっていた。その部屋のソファや椅子に多くの未婚女性が座っている。玄関に立っていた数人も中に入った。


 猫耳、狐尻尾、小柄な犬系の子、羽を持つ女性とバラエティ豊かだ。どの女性にも共通しているのは、未婚という一点だけ。着飾った彼女らの衣装も華やかだが、髪色や肌色も様々だった。個性的という言葉では片付かない。


「あの、その……この家を買ったから、ずっとイザヤやアンナちゃんと隣で暮らすわけで。同じ日本人同士だし、できたらずっと仲良くしたい。だから」


「きっちり言いなさい」


 ぐだぐだと理由を最初に並べて結論を口にしないのは、断られるのが怖いからだ。アベルの様子を見かねて、ルーサルカが一刀両断にした。びしっと背筋を正した彼は、勢い込んで希望を告げる。


「僕のお嫁さん候補を一緒に選んでください」


「「はあ?」」


 イザヤとアンナは首をかしげ、それからルシファーに目を向けた。頷く魔王と魔王妃から、今度は待っている女性たちを見回す。


「意味がわからないわ」


「あ、ああ」


「簡単よ。一緒にいたい子を選べばいいの。アベルはどの子も素敵で選べないのよ。だからあなた達の意見を参考にしたいのね。確かに一緒にいる時間が長い、同族の意見を聞いて選ぶ婚約はよくあるもの」


 ルーシアの言葉に、選ばれる側の女性達も大きく頷いた。そう言われても、この場で選ぶのは勇気がいるし、そもそもどの子がどんな性格かわからない。他人の家にお呼ばれすれば、誰しもいい顔をして褒められたいと思う。その裏側を見抜くのは、骨の折れる作業だった。


「アベルがモテる原因は、ルシファーの所為なの。剣をあげたから、魔族の中で優良物件になってしまったわ」


 苦笑いするリリスの言葉に、イザヤは額を押さえた。もしかして、アンナがいなければ自分も同じ目に? そんな疑問が確証に変わった瞬間だ。もしかしたら自分だったかも知れない境遇の後輩に、イザヤは同情した。そんな兄に「仕方ないわね」とアンナも肩をすくめる。


 ここで予想外の合コンが始まり、ルシファーはリリスと側近少女達を連れて転移した。貴族はあくまで案内役、あとは当事者同士で何とかしてもらうのがルールだ。


 あまり彼らに付き合っていると、祭りを楽しむ予定のルーサルカやシトリーが気の毒だった。彼女達も恋人探しをしているのだ。先導役としてしっかり役割を果たす義務がある。


「アンナ嬢とイザヤがいれば、もう暴走はないだろう」


 アベル達が住む家は城下町より魔王城に近い。一気に城下町の前まで転移したルシファーは、未婚女性を連れた老齢の貴族が練り歩く街道を進み、ある家の前で足を止めた。


「ここからスタートだ」

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