魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

799. 要注意人物という括り

   海水の研究は一時中止、霊亀は熟睡中で個体違い、黒い何かは正体不明、海に新しい(半魚人みたいな)魔物が増えた。巨大生物を撃退したが、海の浄化は中途半端、さらに妙な不安が広まった――結果として、何も解決していない気がする。魔王城の執務室に戻ったルシファーの言葉に、ベールが追加した。


「それだけではありません。魔の森の魔力が変質したなら、浄化しなければなりません」


 アルラウネのアルシア子爵の言葉通りなら、魔の森の魔力が変化した可能性がある。弱い個体は耐えられないかも知れないと嘆いていたのだ。浄化が必要なら、すぐに動く必要があるだろう。


「よし、オレが」


「私も」


「……陛下、リリス姫。以前から申し上げておりますが、最高権力者がいきなり出張でばるのは愚策ですよ」


 なぜ自分で動こうとするのか。何のための部下なのか。数万年説明しても理解しないのだから、もう都度止めるしかあるまい。アスタロトの溜め息混じりの言葉に、ルシファーとリリスは顔を見合わせた。


「だってオレが動いた方が早く解決できる」


「私もそうよ」


 まったく理解していない。それどころか反論された意味すらわからないのだろう。頭が悪いわけではないのに、どこから教育を間違ったのか。そう考えるアスタロト自身、本能で動くこの2人を管理することが間違いだと気付いていなかった。


「魔王軍は、魔の森の異常を察知して動き、敵があれば排除し、弱者を助ける存在です。もしルシファー様が動くのであれば、彼らを全員解雇します」


 司令官であるベールの厳しい言葉に、ルシファーは口を噤んだ。ここでうっかり余計な発言をすれば、本当に魔王軍を解体しかねない。失業者を量産するし、今後の魔物狩りにも手が足りなくなる。全部やれと言われたら過労死するし、リリスとの時間が取れなくなると青ざめた。


「ま、任せる」


「最初からそう仰ればいいものを……」


 舌打ちしそうな口調でベールは話を切り捨てる。後ろで顔を見合わせる4人の少女達は、心に刻んだ。――アスタロト大公だけじゃなく、ベール大公も要注意だ、と。






 その頃――


 貴族の相手を買って出たベルゼビュートは、中庭で民と貴族の両方から意見を聞いていた。騒動が一段落したなら祭りを再開したい民と、まだ危険が去ったか確認できていないと主張する貴族。対立とは呼べない言い争いに、彼女は巻毛をくるくる回しながら呟いた。


「バアルがいたら、賭けの対象になりそうね」


 あと何日で祭りが再開されるか……私なら5日後、いえ3日後に賭けるわ。ぐっと拳を握るベルゼビュートの鬼気迫る表情に、貴族も民も声を殺した。普段は不真面目に見えるが、大公の地位を維持する強者の拳が、自分たちに向けられる可能性にごくりと喉が鳴る。


 まずい。互いに顔を見合わせた彼らは、引きつる笑顔で手を握り合う。彼女に叩きのめされるくらいなら、さっきの敵は今の友で行こう!


「ベルゼビュート大公様、俺たちは仲良しですぜ」


「そ、そうですとも! 何のわだかまりもありません」


「そうだ、一緒に飲みましょう!」


「それはいい」


 肩を組んで離脱したドラゴンと獣人に続き、リザードマンやエルフもそそくさと離脱する。そのまま城下町ダークプレイスの屋台村に消える彼らを見送り、ベルゼビュートは首をかしげた。


「仲直りしたならいいけれどね」(面倒が片付いてよかったわ)


 赤い唇で笑う女大公の微笑みに、逆に怖くなった民は近くの貴族や兵士と手を繋ぎ、肩を組んで仲良しアピールしながら逃げ出した。

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