魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

788. 相次ぐ着地ミス

 落ちた城を復元させる魔法陣を設置することになり、ルキフェルがあれこれと工夫を凝らして魔法文字を組み立てていく。凝り性の研究職であるルキフェルが夢中になって設計する間に、霊亀を捕まえる算段を始めた大公2人。彼らの横で、サタナキアは青ざめていた。


 どうしよう、我々の着地ミスで魔王陛下が叱られてしまう。ああ、我に翼があればこのような事態には……なんということだ。詫びても詫びきれない。冷や汗をかく将軍をよそに、精鋭達は「いつものこと」と楽観していた。


 魔王軍の指揮権は、最終的に魔王陛下に属する。普段はベール大公閣下が指揮を執るが、あくまでも代行権を行使しているだけ。その認識が強い彼らは、ルシファーがベールに叱られる光景を見たことがなかった。ベールやアスタロトが意図して見せないのだから、当然の結果ではあるが……。


 上官がそこまで青ざめる原因がわからない。アスタロトが説教する姿を知っているのは、城内で仕事をする侍従や侍女までだった。情報セキュリティがザルの魔王城だが、侍従が自主的に作った「話してもいいライン」を越えるため、これらの話が漏れることはなかった。


 ベルゼビュートが管理しない方が、セキュリティが機能する魔王城である。


「では城の再構築をルキフェルに任せ、我々は霊亀の回収に向かいましょう」


 ベールの号令のもと、サタナキア率いる魔王軍の精鋭達が集う。転移魔法を、魔法陣なしで構築したベールが彼らを連れて飛んだ。さっさと自力で移動したアスタロトは、亀の上で溜め息をつく。


「奇妙な現象ですね」


 のそのそと短い手足で匍匐前進中の霊亀は、背中の上にドラゴンが乗っても止まらないだろう。何か目印があるのか、黙々と手足を動かす。過去に海から上がった時も同じだったと考え、方角を確かめた。


「魔王城ではなさそうです」


 方角が少しズレている。首をかしげるアスタロトの隣に、ベールが現れた。魔法陣が足元に浮かばなかったので、幻獣が得意とする魔法だろう。そう当たりをつけて口を開こうとしたアスタロトの近くに、次々と魔王軍の若者が転移してくる。


 無事着地したのに、次に転移した同僚に押されて転げ落ちたのは狼獣人だった。しかし流石の運動神経を見せ、一瞬で狼に変化する。爪を立てて落ちる手前で防いだ。


 そんな彼の上に、ドラゴンの巨体が落ちてきた。受け止め切れず、双方ともに地面まで転がる。獣化していたこともあり、ケガはなかった。そこへ吸血鬼系の若者が落ちかけ、慌ててコウモリに変化して回避する。


「ベール、何をしたのですか」


「久しぶりでしたので、目算を誤りました」


 素直に非を認める姿勢は素晴らしいが、若者が甲羅の縁に大量にぶら下がり、数人が転げ落ちるという無様な姿を晒す羽目になった。


「まだまだ訓練が足りませんね」


 このくらいは堪えてもらわねば……そうぼやくアスタロトの冷たい声と視線に、精鋭達は震え上がった。ちなみに指揮官であるサタナキア公爵は華麗に着地し、次々と現れる部下をすべて足蹴にして生き残っている。転げ落ちずに済んでドヤ顔のサタナキアに、ベールが溜め息をつく。


「部下を犠牲にする上官には、何か罰が必要でしょうか」


 結局、ルシファーと同じく説教を受ける立場に陥ったサタナキア将軍の顔色は、その日一日青ざめたままだった。

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