魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

787. 嫌な予感がする

 打ち寄せる波を見ていたルシファーが足元に魔法陣を描く。帰城する魔王に従い、護衛のフェンリルと少女が後ろについた。顔を見合わせた側近少女達も慌てて駆け寄る。


 この時点で、自力で帰れる大公を除外した魔王の転移魔法陣が発動し、全員城門前に飛ぶ。リリスをそっと芝の上に下ろし、腕を絡めた。ご機嫌のリリスがなにやら歌を歌い始める。その旋律は、精神が幼くなった彼女が口遊んだものと同じだった。


「リリス、その歌はどこで覚えたんだ?」


「知らないわ。ただ、いつの間にか歌えるようになっていたの」


 以前から不思議な言動が多い彼女なので、後ろの側近達は「そういうものなのね」と簡単に受け止めた。芝の間から小さな白い花が覗いている。踏まないように歩きながら、ルシファーは眉をひそめた。


「我が君、サタナキア公ですぞ」


 示された通り、城門の上で大柄な男性が手を振っている。振り返して近づくと、門から飛び降りたサタナキアが駆け寄った。


「ご無事でしたか。アスタロト様やルキフェル様はいかがなさいました」


 一緒に出掛けた大公がいないことに、怪訝そうな顔をする。そのため霊亀の転送の手伝いに向かったと伝えた。納得した様子で頷き、すぐに部下を呼び寄せる。


「私も行ってまいります」


「気をつけてな」


 魔王軍の精鋭を率いる彼が協力するなら、アスタロトかルキフェルが戻ってくるだろう。そう考えて許可を出して見送った。サタナキアの足元に魔法陣を描いてやれば、礼を言って精鋭50人ほどが一度に転移した。


「ルシファー、向こうは大丈夫かしら」


「ん? 問題ないと思うぞ」


 転移魔法陣の到着地点を、ベールの魔力のすぐ近くに設定した。ルキフェルのように真上に設定するのは、人数が多くて危険だと判断したのだ。それは間違っていないが、リリスはなんとなく嫌な予感がした。


「無事だといいけど……」


 彼女の懸念は、ある意味的を射ていた。












 転移魔法陣が浮かんで、すぐに消える。魔王ルシファーが指定した通り、魔王軍の精鋭達はベールの近くに現れた。問題は彼らの足元に地面がなかったことだ。


 己の城があった洞窟の入り口に立つベールから、数歩先を指定した魔法陣に手落ちがあったとすれば、地面の有無を確認する文字が不足していたことだろう。何もない空間に放り出されたものの、足をつく先は何もなく……ふわっとした無重力感に包まれて落下した。


「っ! 全員、落下に備えろ」


 落ちゆく将軍サタナキアの号令で、翼のある種族が、飛べない種族の手を握る。ばさっとあちこちで羽が広げられ、落下が止まった。何人かすり抜けて落ちていくが、サタナキアが放った魔力の網に引っかかる。


「……ずいぶん大雑把な、これは陛下ですか」


 魔法陣を描いた者を特定したベールが、短距離転移してサタナキアの腕を掴んだ。壊れた城の瓦礫に着地した彼らは、安堵の息を吐き出す。サタナキアに尋ねたつもりはなく、確証のある呟きだったが、律儀な将軍は敬礼して答えた。


「はっ、魔王陛下のご厚情による魔法陣にございます」


「ご厚情で精鋭を壊滅させる気ですか。あとでじっくりお話を伺う必要があります」


 丁寧な言い回しで説教を匂わせた美貌の指揮官に、サタナキア公爵は冷や汗を拭う。申し訳ありません、陛下……私では御身を守り切れません。その必死の願いが届いたのか。


 同じ頃、魔王城の中庭でルシファーが大きなくしゃみを連発していた。


「嫌な予感がする」

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