魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

776. 偽装されていたでしょう?

 聞き取った内容をルキフェルが箇条書きにしていく。手元のメモ用紙はびっしりと細かな字で埋め尽くされ、情報の混乱具合が窺えた。この内容を精査してまとめる作業を文官に振り分けるアスタロトも、魔王軍の報告書を眺めるベールも、ルキフェル同様に頭を抱えていた。


 皆が真剣に悩む中、けろりとしているのはベルゼビュートだけ。本能重視で生きてきた彼女は、今回の魔力を流す作業に参加しなかった。そのため、現場での不可思議な状況を体験していない。


 ざわざわと近くの魔族同士での情報交換が始まり、大広間はさざ波に似た音が反響した。何を話しているか個々の内容を聞き取れないが、誰もが不安そうに推測や仮説を飲み込む。口にしたら現実になるかも知れない。得体の知れない恐怖が人々を襲っていた。


「魔の森から魔力が消えた最初の報告は、ベルゼか?」


 記憶を手繰ったルシファーの問いかけに、ベルゼビュートは大きく頷いた。ピンクの巻き毛を豊かな胸元に垂らし、紺色のドレスを纏った美女にリリスが声をかける。


「ベルゼ姉さん、どうして森の魔力がないと気づいたの? いたでしょう?」


「ええ。確かにわかりにくくしてあった……え? 偽装だったの?!」


「魔の森にルシファー達を驚かす気はなかったわ。だから森の木々が減ったと騒がれないように、偽装したはずなの」


 ベールとアスタロトは部下への指示出しに忙しく聞いていないが、ルキフェルが慌てて振り向いた。向かいのベルゼビュートに近づき、状況の確認を始める。


「あの時、森の木々はわ。でも透き通って魔力が感じられなくて……手を触れなかったから、その点は確かめてないわね」


 影響を受けた精霊が消えかけていたため、焦ってしまって森の木々の様子を目にした通りに伝えた。あの時に手を触れていたら、偽装工作に気づけたのかもしれない。しょんぼりと項垂れたベルゼビュートが、申し訳なさそうに「ごめんなさい」と呟いた。


「いや、あの場面では仕方あるまい」


 己の民が傷ついた状況で、周囲の観察が疎かになるのは仕方ない。そんな状況でも、魔の森の異変に気付けたことは、精霊女王としての能力だろう。大公の中でもっとも森の機微に敏い彼女を騙すつもりだった魔の森としては、一本取られた形だった。


「ベルゼビュートが他にあの時気づいたこと、思い出せる?」


「えっと……森の音がなかったわ。葉擦れの音はするのに、鳥の声や動物の気配がないの。まるで遠くの映像だけを転写したみたい」


「転写……」


 映し出した映像のようだったと表現したベルゼビュートは、気づかぬまま正鵠を射ていた。あの時、彼女の領地から森の木々は失われていたのだ。姿かたちを別の森から写したため、魔力も音も消えた。ルキフェルの出した仮説に、リリスは頷くことで肯定する。


 リリスも魔の森の一部だが、常に繋がっているわけではない。知ることが出来ない情報もあり、今回は少しばかり多く情報を受け取っただけだった。


「あのね。私の持っている情報を公開するから……」


 そこで意味ありげに言葉を切る。次のリリスの言葉に注目する大公と魔王へわずかに首を傾げ、少女は金色の瞳を瞬かせた。ほわりと笑顔を浮かべ、条件を口にする。


「全部終わったら、パーティーを開きたいわ。城門前や中庭で、子供も一緒に踊って楽しみたいの」


 無邪気で他愛ないが、魔族好みの提案にルシファーは耳元に口を寄せて「お姫様のお望みのままに」と囁き、額と頬にキスを落とした。

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