魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

764. 口伝えが導く答え

「ルキフェル、あんたは手伝いに行ってらっしゃい」


 中庭で資料と睨めっこする青年を突き飛ばす。顔を上げたルキフェルの驚いた顔に微笑んで、ベルゼビュートは魔法陣を作動させた。発動した転移魔法陣がドラゴンの青年を包み、一瞬で姿を消す。身体から抜けた魔力を補うため、芝の上に寝転がった。


「留守番なんて、あたくし1人で十分よ」


 ドレスの裾が乱れて太腿まであらわになるが、直すために動くのも面倒だ。とにかく怠くて動きたくなかった。そのままごろんと転がり、地面を抱きしめるような形で目を閉じる。芝がちくちくと肌を刺激するが、大きく深呼吸した。


 緑の香りが心地よい。疲れた身体を地脈の魔力が優しく包んだ。


「ベルゼビュート様?」


 声をかけた侍従が、ぐっすり眠ったベルゼビュートの上に柔らかな掛布を乗せる。太陽の香りがする布に頬ずりした彼女の表情が少し和んだ。この場に集まった城下町の住民や魔獣を含め、多くの種族を転移させた精霊女王の眠りを妨げぬよう、風が音を殺して静かに葉を揺らす。


 残った女性や子供を中心とした魔族は、彼女の眠りを見守りながら森に祈る。――誰一人傷つくことなく戻りますように、と。










 突然飛ばされたルキフェルが弾き出されたのは、ベールの頭上だった。慌てて羽を広げるが、ベールが受け止める方が早い。ふわりと風に乗ったベールが抱きしめて下り、ルキフェルは安堵の息をついた。どうやら到着地点をベールの魔力にしたらしい。


「びっくりした……ベルゼは乱暴なんだから」


 読み取る間もなく放り込まれたルキフェルは苦笑いして、手にした資料を収納へ投げる。まだ仮説段階だが、ある程度の状況を分析できた。


「ルキフェルも来たのか」


 ベールに抱き着いたルキフェルは、後ろにいるルシファーを振り返る。正面から抱き留められた自分とは違うが、リリスが首に手を回してしがみついていた。小さな声で歌を歌う。その声にルキフェルは耳を澄ませた。


 鼻歌のようだが、歌詞に似た言葉をいくつか連ねて繰り返している。己の仮説に確証を強めたルキフェルは、ベールの手を離した。肩に手を置くベールに頷き、ルシファーとアスタロトへ説明を始めた。


「魔の森の口伝えを各種族から集めたでしょう? あれらを書き記してる時に気づいた……すべての口伝えは繋がってる。同じ話を分割して、短い一部分だけが伝承された。これはアラエルが覚えていた魔の森の話につながるよ」


 ひとつふたつ聞いても何もわからない。すべてを集め、並び替える必要があった。目にした景色や記録を丸暗記するルキフェルでなければ、気づくのは難しかっただろう。それぞれを単独で読んでも、意味はないのだから。


「魔の森が守る『核』があって、その為なら魔の森は己の魔力を投げ出す。今回は海が異常をきたして、海へ魔力を注いだように見えるけど……たぶん、違うよ」


 どう説明したらいいか。長い話を出来るだけ短く伝えるために、ルキフェルは途中を省いた。


「海に魔力を流したのは『核』を守るため。でも海は核じゃない。黒い海が核を傷つけるから、魔力を流して清めようとしただけだ。でも魔力を大量に使ったことで、核を傷つけるジレンマに陥って……魔の森は海を見捨てる決断をした」


 結論を突き付けられ、ルシファーは海を振り返る。黒い海が見捨てられたとしたら、海の中に核は存在しない――そして勘のいい者は気づき始めた。


「核は――『  』なのですね?」


 息を呑んだアスタロトが絞り出した声は震えていた。

「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く