魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

759. 報告はやや不機嫌に

 魔法で引き寄せるのはリリスが魔法陣を使えないから、別に珍しいことではなかった。問題は、引き寄せた葡萄の色だ。見栄えや好みの違いを考慮し、3色の葡萄が並んでいた。


 赤、紫、緑――リリスが好むのは赤だ。自分の瞳の色と同じだとはしゃぎ、いつも赤い葡萄から食べた。白いワンピースをシミだらけにして食べ、爪も赤く染まるほど好物だ。


「リリス、本当にこの色でいいのか?」


「うん」


 無邪気に彼女が口元へ運んだのは、渋い味のする紫だった。幼い頃は甘みの強い緑、ある程度大きくなると酸味と甘みのバランスが取れた赤を好んだのに……まるで別人のような感覚を覚える。膝の上にいるのはリリスで、魔力も幼くなった中身も外見も、間違いなく最愛の少女だ。


「ん!」


 皮を剥いてくれと強請るリリスに微笑みかけ、ルシファーは慣れた手つきで葡萄を剥いて口元へ運ぶ。幼女の頃にしたように、唇に触れさせるとぱくりと指ごと食べた。果汁がついた指を舐めて、満足そうに笑う。間違いなく昔のリリスと同じ癖、同じ所作だった。


 一瞬疑いかけた自分を苦笑いで誤魔化し、次の粒も剥いてから差し出す。3粒ほど食べて満足したリリスに、今度はスープを飲ませて魚を挟んだパンを手に持たせた。もぐもぐとお行儀よく食べるリリスの様子に、周囲もほっとしながら食事を開始する。足元のヤンも、生肉の塊に噛み付いた。


「ルシファー様、お披露目どころではなくなりましたね」


 予定が狂ったと肩を竦める側近は、正装用に結った金髪を揺らして首を横に振る。同じテーブルで食事をする4人の少女と1匹のドラゴンは、話を聞かないよう気を使っていた。


 アスタロトが地図を取り出し、なぜかテーブルの端に置く。共有された地図に書き込まれた文字は、調査が休みの夜間に書き出されることはない。なぜ並べたのか問う銀の眼差しに、アスタロトは曖昧に微笑んだ。


「そういえば、ルキフェルを呼んだか?」


 顔を見せない青年を心配するルシファーへ、シトリーが返答した。


「お呼びしたのですが、何やら研究に没頭しておられて……ダメでした」


「ああ、夢中になると人の声が聞こえなくなるからな。返事もしなかっただろう?」


 くすくす笑いながら「それは仕方ない」とルシファーが告げる。自分が呼びに行っても気づかないことがあるのだ。シトリーでは荷が重かったはず。ベールならば、上手に気を逸らす術を知っていた。


 そう考えたルシファーの思考を読んだようなタイミングで、ベールがドアをノックする。控えるアデーレがドアを開いた。眠そうなルキフェルの腕を掴んで連れてきたベールが、食事会の様子を見て溜め息をつく。


 予想通りの光景だ。そこにアスタロトが加わっていたのは、意外だったが……。


「陛下、魔王軍の指揮を放り出し、報告も待たずに……何をしておいでですか?」


「リリスとの約束があった」


「なるほど。それで、アスタロトは何を?」


「ルシファー様と打ち合わせがてら、軽食をご一緒していましたが……何か急ぎですか?」


 手元の地図をこれ見よがしに指先で叩いて示すアスタロトに、ようやく地図を置いた理由に思い至り、ルシファーは感心した。こうやって準備万端で迎え撃てばいいのか。


「報告があります。霊亀が消えました」


 突然の言葉に顔を見合わせたルシファーとアスタロト。ルキフェルは驚いた様子で目を見開き、翡翠竜の口から「ぐぇ?」と奇妙な声が漏れた。

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