魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

753. まだ解決ではない

「陛下っ! 魔の森が戻ってますわ!!」


 転移したベルゼビュートが、凄い剣幕で駆け寄る。転移の着地点は障害物を避けた彼女だが、かなり焦っていた。そのため途中でモレクにぶつかり、彼を押し倒す形で倒れ込む。


「聞いておられます? 魔の森の魔力が……っ」


「あ、ああ……すでに報告があったが……その、ひとまず立った方がいいのではないか?」


 困惑顔のルシファーに指摘され、抵抗せず押し倒されたモレクの腰に跨って座った自分の姿に気づく。左側に大きく入ったスリットのお陰で、ドレスが破れることはないが……夫婦の夜の営みを覗き見てしまったような光景が広がっていた。


 がばっと開いた白い脚は付け根付近まで木漏れ日に晒され、老体とはいえ下敷きにした男を跨いでいる。スカートが絶妙に隠したせいで余計にまずい状況に見えた。


「あ、あら。ごめんなさい。モレクも悪かったわ」


「いやいや、後頭部を打った価値があったというもの。なかなかの眼福でしたわい」


 役得だったと笑って流す姿は、神龍の長老よりエロ爺である。風の魔法で身を浮かせ、すぐに降りたベルゼビュートに照れはなかった。それもそのはず、モレクが卵の頃から知っているのだ。近所の子供と戯れた程度の感覚しか持たなかった。


 ついでに言うなら、ベルゼビュート自身は羞恥心が薄い。裸で城下町を歩いて注目されても気にしないくらい、性に関してオープンだった。


「こちらでも報告があり、確認しているところだ。ベルゼの領地でも魔力が戻ったんだな?」


 最終確認をするルシファーに大きく頷いたベルゼビュートは、見てきた光景を語り出した。


「木々が魔力を帯びて、それは美しい緑色に輝いておりました。完全に元通り、もしかしたらそれ以上ですわ」


 以前より魔力量が増えた気がした。そう明言する精霊女王の森に対する知覚は鋭く、本能と同じ深い部分で感じ取る。疑う理由はなかった。


 理由は現時点で不明だが、魔の森は復活しようとしている。失った魔力が戻れば、魔物も魔族も以前と同じ領地に戻れるだろう。


 ほっとして肩の力を抜いたルシファーが、ふらりとよろめいて、膝から崩れ落ちた。咄嗟に支えたのは、エドモンドだ。魔王軍の精鋭達が用意したテントへ運び込み、青ざめたルシファーの様子に眉をひそめた。


「悪い、少し気を抜いた」


 苦笑いして身を起こそうとしたルシファーへ、腕を組んで唇を尖らせたベルゼビュートが立ちはだかった。


「少し休んでくださいませ」


「だが」


「結界もいてくださいね。急激に魔力を消耗してますわ」


 まだ解決した訳ではない。


 突然魔力が流出したのだから、原因をしっかり探っておかなくてはならないのだ。また同じことが起きた際、迅速に対応できるように。同じ悲劇を起こさないために。今回は幸いにして民が集中していたため、救出も救護も間に合ったが、平常時にこのようなトラブルが発生したら、気づくまでに被害者が出る。


 魔王として、民を守る役目があるのだから。そう主張しようとしたルシファーへ、ベルゼビュートが怒った顔で言い放った。


「もうっ! 言うことを聞いてくださらないなら、アスタロトを呼びますわよ!!」


「わ、わかった」


 それは怖い。今の状況を彼に見られたら、絶対に叱られると青ざめたルシファーが頷いた。ルシファーもベルゼビュートも失念している。精霊女王ほどの者が感情に任せて名を呼べば、それは召喚と同じだった。


「陛下、なんという……また無茶をなさったのですね」


「アスタロト」


 来てしまった。どうしてくれるんだと睨むが、ベルゼビュートはそっと目を逸らした。呼ぶつもりはなかったが、現実問題として呼んでしまった事実は否定できない。彼女の失礼な態度をスルーした側近は、テントに横になった主人の脇に膝をついた。


「説教はあらためて行いますが、ひとまず結界を解きましょう」


 背に広げた6枚の翼が薄くなっている。このまま使い続ければ、以前のように不自由を強いられるだろう。そう考えて口にした言葉に、ルシファーは厳しい顔で首を横に振った。

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