魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

742. 肌が黒くなった幼子

 少女達は手分けして、逃げ込んだ魔族の手当てを行った。魔王妃であるリリスが動けない今、代わりに手足となって動くのは自分たちの役目と認識している。


 青ざめた顔色のリザードマンの子供に近づいたルーサルカは、笑顔で挨拶をしてから手を伸ばした。相手が興味を持って触れるのを待って、その体温の低さに眉をひそめる。


「魔力不足ね……よく我慢したわ」


 大量に複製された魔法陣を1枚持たせて、子供の持つ魔法陣を通じて地脈から魔力が供給されるように接続する。作業自体は呼び水となる少量の魔力消費だけで済むため、大した負担はなかった。ふわりと温かい感覚に包まれた子供はびっくりして「わっ」と騒いだ。


「大丈夫よ、温かかいでしょう? 持ってると具合が良くなるから」


「うん」


 素直に頷いた子供は大切そうに魔法陣を抱きしめた。魔法陣の複製は水魔法が得意なルーシアの担当だ。彼女から渡された魔法陣はまだたくさんあるため、次の患者を求めて立ち上がった。レライエやシトリーが近くの精霊達に駆け寄って助け起こす姿が見える。


「魔力は平気?」


 突然ルキフェルが声をかけた。後ろに立たれていたことに気づかなかったルーサルカの、尻尾がぶわっと膨らんだ。慌てて逆立った毛を撫でながら、ルーサルカは「はい」と答える。アスタロト大公の養女となっているが、彼女自身はまだ爵位がない。


「私は平気です。お気遣いありがとうございます」


 丁重に、アデーレから教わった通り頭を下げて礼を口にした。ルキフェルは水色の瞳を細めて周囲を見回し、慌てた様子でルーサルカに注意を促す。


「あれ、あの子供……カルンじゃない?」


 5歳児の足は意外と速い。人々の間を器用にすり抜けながら、近くの獣人の顔を覗いてはまた走り出す様子から、ルーサルカを探しているようだ。濃い紫色の髪は目立つ。しかしルーサルカの濃茶の髪は獣人にとって珍しい色ではないので、彼からは見つけにくいらしい。


「カルン、こっちよ」


 声を張り上げたルーサルカの方を振り向くと、子供は一直線に走ってきた。ばふんと勢いよく抱き着いて、ルーサルカの足に顔を押し付ける。


「いない、かった」


 いなくて探した。そんなニュアンスの言葉と、抱き着いたまま離れない姿は微笑ましい。こんな状況なのに和んでしまい、ルーサルカはカルンを抱き上げた。


「具合の悪い子を助けているのよ。手伝ってくれないかしら?」


 じっと見つめる紫の瞳が瞬いて、小さな手を口元に当てて考え込んだ。それから頷く。ふと気づいたルーサルカが足元を見ると、また靴を脱いでいた。どうしてもらった靴を履かないのか尋ねたところ、水かきのある足では歩きにくいという。


「靴は部屋に置いてきたの?」


「うん」


 以前と違い部屋に物を置いて出かけられるようになった。何度も根気強く言い聞かせた成果に、ルーサルカが頬を緩める。自分を慕う小さな子供は、弟が出来たようで嬉しかった。この即位記念祭が終わったら本格的に親を探し、見つからなければアデーレの養子になる手はずだ。


 もうすぐ本当の弟になるかも知れないカルンだが、何か違和を覚えた。いつもと違う。じっと見るが、薄暗い時間帯は物が見づらく判別しづらい。違和感の正体がわからず、首を傾げた。


「その子、そんなに肌の色が黒かった?」


 普段から顔を合わせるルーサルカは小さな変化に気づきにくい。逆に久しぶりに顔を合わせたルキフェルは、すぐ違和感の正体を口にした。言われて慌てて覗き込み、獣人特有の縦長の瞳孔を開いて確認する。


「……本当、だわ。具合悪くない?」


 ルーサルカが構ってくれるのが嬉しいと全身で示しながら、カルンは首を横に振った。

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