魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

739. 結束と侵攻の境目で

 てっきり不手際の糾弾だと考えた。魔の森の監視と管理を怠り、騒動を起こした責任を問う声だと思い込んだ。全く逆の申し出に驚きすぎて何も言えず、熊獣人の顔を凝視する。隣の小柄なスプリガンが金づち片手に声を上げた。


「そうっす。魔王様や大公様に比べたら、微々たる魔力ですけど」


「皆で協力したら手助けができそうだから」


 さらに少し離れた場所でケンタウロスが口をはさむ。誰もが口々に協力を申し出ているのだと理解すれば、自然とルシファーの頬が緩んだ。


「おれらだって魔族の一員だ! 陛下が困ってるんなら声かけて欲しかったぜ」


 げらげら笑いながら、ドワーフが告げた言葉がすべてだった。彼らは魔王や貴族から「協力してくれ」と言われるまで待てず、早々に動き出したのだ。声をかけられてから恩着せがましく動くのではなく、自分達の大切な森を守るために、今動く決断をした。


 沼や湖に棲もうと、砂漠化した地区に棲もうと、森の恩恵は常に感じてきた。魔の森が生み出す魔物を食らい、森が作る栄養を浴びて、彼らは育ってきたのだから。


 魔の森や森の管理人たる魔王に危険が迫れば、自主的に動くことを厭わない。それが己の身を危険に晒したとしても、笑顔で協力を申し出るのだろう。


「ああ、ぜひ頼む」


「「はい」」


 一斉に歓喜の声をあげた魔族の群れを見ながら、ルシファーは腕の中のリリスに声をかけた。何もわからないのか、リリスは小声で歌を続けている。まるで赤子のように無垢な声が零れ出ていた。


「リリス、みんな助けてくれるぞ」


 きょとんとして首を傾げたリリスは、よく理解できていない様子ながら「よかったね」と笑った。ルシファーの感情に反応した少女の黒髪に頬ずりして、魔王は声を張り上げる。


「開門せよ! 総力戦となる、得意分野を生かして手伝ってくれ」


 その命令を受けて、城門がゆっくり開かれた。押し寄せた民に驚いてた衛兵も槍を放り出し、人々の群れに加わる。団結した民の温かさに感謝しながら、肩から力を抜いた。まだ油断してはいけないと己を戒めながらも、民の申し出が素直に嬉しい。


 彼らを守るのがオレの誇りだ――改めてその感情を噛み締め、リリスの額に接吻ける。何かを誓うような神聖な気持ちのキスに、少女はふわりと微笑んだ。再び彼女の赤い唇から歌が零れる。


「どんな状態でもお前を愛している、リリス」


 だから絶対に死なせない。リリスも、民も、貴族や大公達も含めて……守り抜く決意を固めた。










「これは……っ」


 イザヤが大きく目を見開く。彼の傍らにはアンナとアベル、そしてハイエルフのオレリアがいた。短い距離ながら転移を使える顔見知りを探すイザヤの前に、オレリアが通りかかったのは偶然だった。失礼を謝罪しながら彼女に「フェンリルの森まで連れて行ってくれ」と頼む。


 魔の森が防波堤となって、人族の侵攻をある程度防いできた経緯を知っている。だから魔の森が失われてただの樹木生い茂る森となったら、気づいた人族が入り込むのではないか? 説明できない不安と喪失感に苛まれるイザヤの懸念を聞き、オレリアはすぐに動いた。


 交代で魔王城の庭を管理して守るエルフを呼び集め、彼女らに魔力の提供を依頼する。中距離の転移しかできないオレリアだが、3回転移すれば領地まで戻ることが可能だった。2回分は己の魔力で補えるため、1回目の転移分だけエルフに借りようというのだ。


 話を理解したエルフ達だが、そもそも精霊と一緒で妖精族も森の影響を受けやすい。かなり体力の消耗が激しいことを承知の上で、絞り出した魔力を魔法陣へ流してくれた。礼を言って飛んだ先で、再び魔法陣を作ったオレリアが飛ぶ。


 3回目の転移を終えたオレリア達の眼前に広がるのは――攻め込んだ人族の放った炎だった。

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