魔王様、溺愛しすぎです!
735. 中庭での奮闘
精霊女王である彼女にとって、精霊達は子供と同じだった。我が子のために母が命を削るのは当然と言い張り、ベルゼビュートは限界近くまで魔力を放出し続けたのだ。
「いい加減にしなよ! ベルゼビュートが消滅したら、誰が精霊を守るの?! 僕は頼まれてもやらないから」
叱ったルキフェルが、巨大な魔法陣を描いた。ベールに話と命令を伝えてすぐに中庭に駆け込み、集まった貴族に事情を説明する。非常事態が宣言された以上、魔族全体の問題だった。飲んで騒いでいた連中は大慌てで準備を手伝う。祭りの騒々しさは、瞬く間に消えた。
「だけど……」
泣きそうな声で呟いたベルゼビュートを止めようとして、おろおろしていたサタナキア公爵が首を横に振った。普段の適当な態度から想像できないが、ベルゼビュートは森の監視に手を抜いたことはない。増え過ぎた魔物の駆除も含め、外回りを担当する彼女は己の責任を果たしてきた。
その責任感の強さと優しさを知るから、サタナキア公爵は無理に彼女を止めることが出来なかった。そこへ飛び込んだルキフェルの叱咤は、サタナキア公爵にとって救いだ。
「ほら、ベルゼビュート様も落ち着いて」
冷たい水を入れたコップを渡しながら、ルキフェルが行う作業を彼女に言い聞かせた。
「安心してください。ルキフェル大公閣下が魔法陣で精霊に魔力を注いでいます。ベルゼビュート様も魔力を回復させて、早く復帰できるように休みましょう」
逃がさないよう、ヤンに前足で捕獲されたベルゼビュートは小さく頷いた。巨大な魔法陣を手際良く中庭に設置したルキフェルは、魔力を注ぎ始める。その中央に集められた精霊達に注がれる魔力は、どこか暖かかった。
上空には同じ大きさの魔法陣がもう1枚描かれていた。そちらは転送の受信機として稼働する。魔の森で保護された精霊や、弱った魔族を転送した際の受け取り口だった。セキュリティの問題で城門前に転送される決まりだが、緊急事態のため中庭で受ける。
協力を申し出た貴族達があっという間に2組に分かれた。魔の森と精霊、どちらも危険なのだ。全員が精霊に魔力を注いでしまったら、森に回す余力がなくなる。
「ピヨ、我らは魔の森側に回るぞ」
「……わかったぁ」
アラエルの指示に、ピヨも大人しく従う。先に動いたから上ではなく、必要とされる場所に必要な魔力を届けることが重要だった。空を飛べたり転移が可能な種族は、自主的に魔の森への供給側を選ぶ。現場まで移動する可能性もあるのだ。
「ルキフェル大公閣下、我々も協力させていただきたい」
「魔力をお使いください」
数人の貴族が声をかけると、ルキフェルは右手を魔法陣に当てたまま、左手に別の魔法陣を呼び出した。少し修正すると地面に置く。
「ここへ注いで。すべて変換してこちらへ流す」
説明の間にも数人が魔法陣へ魔力を注ぎ始める。2つの円の間を繋いだ魔力の帯が、きらきらと輝いて視覚化された。仮にも貴族に名を連ねる魔族なので、魔力量に恵まれた者も多い。倒れていた精霊の中には回復し、周りの同族を介抱する精霊も現れた。
回復具合は順調だ。ほっとした貴族へ、ルキフェルは次の指示を出した。
「交代しながら注いで。まだ転送されてくるよ」
空の魔法陣から降ってきた精霊が下で受け止められ、魔法陣の中央で魔力を浴びる。繰り返される流れが安定した頃、純白の魔王が舞い降りた。
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