魔王様、溺愛しすぎです!
734. こども返り
「僕が伝える!」
「通達を終えたら、ベルゼの手伝いに入れ」
「わかった」
ルキフェルが敬礼して駆け出した。まだ軍服姿の青年を見送り、アスタロトは魔力供給の協力を仰ぐべく、貴族招集の準備を始めた。ルキフェルを追うようにアスタロトが中庭へ向かう。振り返ったルシファーの目に映ったのは、驚いた表情で固まるリリスだった。
彼女の不調は、魔の森と関係があるだろう。魔の森の娘であり分身でもある彼女が、幼い言動を始めたのはここ最近だ。我が侭を振りかざす姿を愛らしいと見逃したのは、少女となったリリスの振る舞いに寂しさを覚えたから。
幼女の頃のように我が侭を口にする彼女を、ただ可愛いと思った。ずっと抱っこして庇護できる状況が楽しくて、いっそ成長しなければいいとさえ願う。己の身勝手な感情をリリスがくみ取ってくれたと勝手に思い込み、都合よく振り回した。
「ごめんな、リリス」
「どうして謝るの?」
幼女から少女へ順調に成長を重ねたなら、さほど感じることはなかった。失いかけて幼子からやり直したのに、今度は一気に元の姿に戻る。そこで感情が追い付かなくなってしまう。少女だと理解しているのに、幼かった頃と同じ接し方をして……ルシファーが望んだ成長なのに。
「改めて話をしよう。リリスはしばらくアデーレと一緒に……」
安全な魔王城の中にいなさい。そう告げようとしたルシファーに、リリスはぽろぽろと大粒の涙をこぼした。慌てて駆け寄ると、ぎゅっと首に手を回して抱き着いた。そのまま離れようとしない。
「リリス、民や森を守らないといけないんだ。危険だからここにいて欲しい」
説得するルシファーの言葉に首を横に振る。そこへ非常事態宣言を受けて駆け付けた少女4人が飛び込んだ。彼女たちがいればリリスも落ち着くはずだ。そう考えて手を解こうとしたルシファーに、リリスは泣きながら「嫌だ」と何度も呟く。
「リリス様」
駆け寄ったルーサルカの伸ばした手を、リリスは拒んだ。困惑した顔のルーシアとシトリーが顔を見合わせ、レライエは眉を顰める。少女達が感じたのは、リリスの異常な幼さだった。幼女の頃より感情的な言動は、何かの枷が外れてしまったように見える。危うい気がした。
「やだ、ルーと一緒」
それはフェンリルに初めて引き合わせた頃の呼び方だった。引き剥がそうとするルシファーの手が、目に見えて力を失った。困るのに嬉しいと思ってしまう。迷うルシファーへ、アデーレは何でもないことのように微笑んだ。
「問題ありませんわ。お連れすればよろしいと思いますよ。赤子の頃から危険を顧みず、常にご一緒だったではありませんか」
赤子のリリスを連れて勇者を撃退し、幼子を抱いて人族の砦を落とした。確かに今更なのだ。危険だからこそ、手の届くところで守ると言い切ったのは自分ではないか。
「そうだな、一緒に行こう」
「ほんと?」
置いていかないかと不安そうに尋ねるリリスの涙を唇で拭い、彼女を抱いて立ち上がった。両手が塞がる? リリスが危険かもしれない? いざというときに守れない可能性を考慮したら、大した問題ではない。隣にいてくれなくては、すぐ手の届く距離にいなければ、助けられないだろう。
「リリス、手が冷たいけど……どこか具合は悪くないか?」
「うん、平気よ。パパ」
少女になってから使わなくなった呼び方が耳に懐かしく、自然と口元が緩んだ。抱き上げたリリスは驚くほど軽く、その異常さが緩んだルシファーの気を引き締める。
「そなた達もついてまいれ」
何か出来ることがないか、強い意志を秘めて進言しようとした少女達へ役目を与える。腕の中で首に手を回したリリスの軽さに、魔の森の深刻な状況が窺えて……ルシファーは足早に部屋を出た。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
3
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
10
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
16
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
11
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
深窓の悪役令嬢
-
15
-
-
聖女(笑)だそうですよ
-
6
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
14
-
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
11
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
7
-
コメント