魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

726. 側近の同情とぬるい眼差し

 説教を大人しく聞くことで決着した『魔王vsアスタロト大公2戦目』だが、リリスはずっと膝の上でルシファーの純白の髪を編んでいた。


 時間があったので、三つ編みにした髪を手櫛で解いて、もう一度編み直す。その際に説教されるルシファーの膝に座るリリスは、悪気なく魔王を正面から抱きしめた。


 同じ髪型でお揃いにしたかった――のちに彼女はこう語ったが、その際の行動が問題だ。


 顔を真っ赤にしたルシファーの耳は説教を聞き流し、魔王様のが大事件を起こす。封印状態のの真上に足を開いて跨ったお姫様の暴挙により、ルシファーの理性は焼き切れる寸前だった。


「なにを……その手はどうするつもりですか?」


 説教の途中で言葉を止めたアスタロトが、リリスの腰を抱き寄せるルシファーの手を指摘する。


「し、下心はないぞ。そうだ、ほらリリスが落ちると危ないからっ」


 必死で言い訳するほど、やましく聞こえるのはなぜか。リリスの腰を抱いたルシファーの理性は限界まで試されていた。


 冷や汗をかく魔王をよそに、お姫様は鼻歌まじりに身体を密着させる。正面からぺたりと体を合わせ、ルシファーの長い髪をポニーテールに結い始めた。そのあとで三つ編みにするのだ。


 長いスカートのお陰で足は膝近くまで隠れているが、魔王様のに非常に近い位置へ座る危険性に気づいていない。さらに密着したため、少女の柔らかな膨らみがルシファーの胸に押し付けられた。


 幸福の絶頂といえるルシファーだが、暴走しないよう己を戒める苦しみも同時に味わう。リリスの黒い編み髪が頬に触れ、彼女の両腕が頭を包む。後ろに回した手で髪を弄るたび、動く彼女から爽やかな香りが届いた。同じ石鹸やシャンプーを使っているのに、不思議とルシファーの欲を煽る。


「……ルシファー様、ください」


 主に魔王様の魔王様を……落ち着くのではなく、落ち着けなくてはならない。


「わ、わかってる」


 反応しないよう必死に理性をかき集めながら、ルシファーはリリスを押し除けることも出来ずにごくりと喉を鳴らした。さすがに見かねたアスタロトが手を出すが、手前でルシファーの結界に弾かれる。


「リリスに触るなっ!」


「そんな場合ではないでしょう!!」


「でしたら、私が」


 横からアデーレが手を差し伸べた。正座を崩したような座り方でルシファーの足を跨いだリリスへ、侍女長は笑顔で指摘する。


「リリス様、そのお姿はですわ。淑女失格です」


「え? あら、そうなの?」


 慌てたリリスがルシファーの膝から降りた。途端に軽くなった膝の上が寒い。暴走せずに済んでよかったのに、なぜか悔しくて悲しい感情に苛まれる魔王ルシファーへ、アスタロトが気の毒そうに肩を叩いた。


「よく、我慢しましたね」


「……ああ」


 自分でもそう思う。もう叱るより忍耐を褒めるしかない側近の同情に、ルシファーは項垂れた。


 あと4〜5年は我慢なのだが……大丈夫だろうか。いや、昨夜も一緒にお風呂に入ったが無事だった。自分の理性を信じるしかない。


 堅い決意を胸に、拳を握る魔王をぬるい眼差しでアスタロトは見つめた。この人――不意打ちに弱いんですよね。お風呂のように裸になること前提なら気にしないが、いきなり抱き着かれたりキスされると危ない。


 今後の対策を、ベールやルキフェルと打ち合わせる必要がありそうです。先ほどまでの説教は終わらせて、彼らを呼び出そうと決めたアスタロトは、溜め息をついた。説教前に侍従達を下がらせておいて良かった、こんな姿は見せられません。


「もういいです、城下町へ行ってらっしゃいませ」


 叱る気力もごっそり奪われた側近の力ない声に、「そうする」と答えた魔王の声も疲れが滲んでいた。何も気づかぬ最強リリスは首を傾げ、嬉しそうに「お説教終わったのね」と呟く。力尽きて引き分け気味の第2戦は、お姫様の一人勝ちだった。

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