魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

725. お天気がいいから

 余計な一言がバレた後、ベルゼビュートはアスタロトに連行されたが……何があったのか。ぶるぶる震えるだけで決して語らなかった。付き合いが長い分悟ってしまい、聞かない方針の魔王と大公にスルーされる。


 そんな騒動があった日の朝食はひたすら甘い。味の面も、目に映る光景も甘かった。


「我が君、鼻の下が……」


「あーん」


 ヤンの注意もどこ吹く風だ。中庭に面したテラスの上で、リリスにスプーンを差し出す。ぱくりと口で迎えたリリスは、甘いジャムの乗ったヨーグルトに頬を緩めた。


「おいしい?」


「ええ」


 答えるお姫様は若草色のドレス風ワンピースだった。略装に近い恰好をしているのは、城下町へ降りるためだ。公式の場でもないのに正装はおかしいし、祭りを賑わす屋台を冷やかして民と触れ合うなら軽装の方がいい。黒髪もポニーテールにしてから三つ編みにした。


「ルシファーも、あーん」


 パンケーキの上に飾ってあったベリーを指先で摘まみ、リリスが差し出す。指ごと口に入れて丁寧に蜂蜜を舐めとってから、ルシファーが微笑んだ。


「うん、甘くておいしい」


 周囲が砂糖を吐きそうな光景に異を唱えたのは、側近アスタロトだった。頭痛を堪えるように眉間を押さえ、大きく溜息をついて小言を口にする。


「陛下、リリス姫。何度も申し上げてきましたが……」


「だったら聞かない」


 同じことを何度も言われたところで、どうせ聞かないのだ。わかっているが、注意せずに見過ごせる状況ではなかった。


 太陽が差し込む中庭方向へ向けられた長椅子の端にルシファーが腰掛け、隣にリリスが座っている。ここまでは問題ないのに、どうして横たわったリリスが彼の胸元に頬を寄せているのか。当たり前のようにお姫様の肩を腕で支え、ルシファーは平然とヨーグルトをスプーンで掬う。


 長椅子の上に足まで乗せたお姫様は、ついにルシファーの首に手を回して抱き着いた。耳元で何か告げると、くすくす笑いながら互いの頬を摺り寄せる。


 仲睦まじくて結構だが、ここは中庭に面して開けたテラスだ。つまり中庭に集まった貴族や民に丸見えの状況だった。小型化したヤンが護衛として後ろでゴメン寝姿勢で動けずにいる。うっかり目を覆う手を外すと主たちのイチャつく姿が見えるため、困惑していた。


「いい加減になさってください」


 アスタロトが厳しい声を出す。そのトーンから「まだ平気」と踏んで流したルシファー、リリスは「何を怒ってるのかしら」と首をかしげた。まったく堪えていない。


「……いいのですよ。そのまま仲を深めていただいても……ただ、婚姻式前にふしだらな行為が発覚した場合は」


「それはないぞ」


「ふしだら、って何?」


 最後までしないと断言する魔王に対し、リリスは単語の意味が気になっている。互いの性的な意味での認識は大きくずれているらしい。温泉がある屋敷でアンナによる性教育を受けたリリスだが、具体的な行為の中身はぼかしたため、知識が偏っていた。


「キス以上の淫らな行為です」


 これまたアスタロトがぼかす。皆が注目するテラスで、性的な話を大っぴらに出来ない事情もあった。その辺の大人の事情を察することなく、子供に分類されるリリスはきょとんとした顔で周囲を見回す。アデーレやヤンも含め、ベリアル達侍従にも目をそらされた。


「ふーん」


 ならば平気ね。そんな軽いニュアンスで納得してしまうリリスに、ルシファーはデレデレと鼻の下を伸ばした。可愛い……整った顔がデレると被害が大きい。満面の笑みでご機嫌のルシファーは締まりのない表情で、テラス下のお嬢様や奥様方を魅了した。


「なぜテラスで食事を始めたのですか」


「「お天気がいいから(よ)だ」」


 ハモる仲良しカップルに、アスタロトは渋い顔で言い渡した。


「この調子だと城下町へ降りる許可は出せませんからね」

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