魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

708. 魔王を撃沈させる発言

 事故による爆発音だったと説明し、笑顔で反論と質問を封じた魔王により、再び狩りの獲物の解体作業が始まった。皮を丁寧に剥いで、後日革として加工しなおす。こういった集まりで得られた利益は、次のお祭り用予算として積み立てられるため、寄付を兼ねて少し高値で取引するのが通例だった。


 ベルゼビュート指揮の下、解体経験のある魔族がバラし始める。子供たちが見様見真似で肉の解体を覚えようとしていた。中には説明しながら解体する親切な獣人もおり、手際よく肉が積み上げられていく。


「さばいた肉はこっちで焼くぞ」


「手伝いましょう」


「僕も手伝うよ」


 ルキフェルが魔法陣をかまどに固定し、火をつける。前回の焼肉大会で火力の調整が容易な魔法陣を開発したのだ。魔王城の売店で販売され、主に奥様方の好評を博した。アクセサリーの固定用と並んで、重宝する魔法陣トップ3に数えられる。


「魔法陣のここを変更したら、着火の魔力消費が減らせるぞ」


 着火の様子を見ていたルシファーが、指先で魔法陣の文字をひとつ変更する。するとルキフェルは唸りながら、反対側の文字を直した。簡単そうに行うが、見守る魔族には手出しできない高度なやり取りだ。しゃがみこんだリリスは、ワンピースの裾が汚れるのも気にせず首をかしげた。


「だったら、ここも弄らないと安全性が……」


「ああ、そうか。民が使うのなら安全装置は重要だ」


 爆発しても平然と受け流す魔王や大公はともかく、魔族が日常の炊事に使うなら安全第一だ。爆発防止の魔法文字を変更したルキフェルとルシファーは、近くにいた子供を手招きした。何度も確認した魔法陣をかまどに設置する。


「ちょっと手伝ってくれ」


「あい!」


 勢いよく駆けてきた子供に、幾重にも結界を施してから着火を頼む。魔力量が少なくなっても動作するか確認するためだ。手をかざした子供の手を、やさしく横へずらしたリリスが「危ないからこっち」と指示した。火は燃え上がるため、魔法陣の上に手を置くと炙られてしまう。


 子供は美形に囲まれにこにこ笑いながら、少し魔力を流した。ぽっと赤い火がともり、すぐに指定した大きさまで燃え上がる。あとは魔力自体を周囲から自動的に集める回路が作動するため、本人の魔力は不要だった。


「うん、これはいい出来だ」


「改良した魔法陣と売店のを入れ替えてくる」


 大喜びで売店へ向かうルキフェルをよそに、ルシファーは子供の頭を撫でた。猫耳がついた獣人の子は、嬉しそうに笑う。収納に入れた飴を取り出して、手伝いのお礼を言って渡した。


「友達と食べる」


 そう口にした子供に、追加で飴を持たせた。手を振って走っていく子供の姿に、リリスはルシファーの腕に抱き着く。


「ん?」


「子供ってかわいい。早く欲しいわね」


「…………っ」


 真っ赤になったルシファーが膝から崩れ落ち、純白の髪が揺らめく炎に炙られる。しかし当人は気にした様子なく、両手で顔を覆って照れていた。服の裾も白い肌も炎が舐めているが、幸いにして結界は有効だ。かまどの中に頭を突っ込みそうな姿勢で、ルシファーは「子供、子供」と呟く。


「何をしてるんですか」


 まあ燃えないでしょうけれど……苦笑いして魔法陣を消したアスタロトがルシファーを立たせるが、照れた魔王は使い物にならなかった。


「リリス姫、肉を焼き始めましょう」


 民が待っていますから……そう匂わせたアスタロトへ、元凶である自覚がないリリスは大きく頷いた。ルシファーが危ないからと扱わせてくれないトングを器用に使い、肉を焼き始める。


 未知の体験にリリスが満足する頃、ようやく爆弾発言から立ち直ったルシファーへ「あーん」と肉を食べさせ、再び魔王を撃沈させるのは15分後のことだった。

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