魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

704. 疑えばどこまでも黒い

 手をつないだ魔王と魔王妃が魔力を高めたことで、周囲は解体の手を止めて見入った。白と黒の翼をもつ2人の姿は魔族にとって、力の象徴でもある。魔力の高まりに反応したアスタロトが転移し、状況説明を求めて近くにいたルーサルカに声をかけた。


「何がありました?」


「カルンが行方不明になって……」


「リリス様と陛下が探してくださるとおっしゃられたのですわ」


 混乱したルーサルカの説明を途中で引き受けたルーシアの報告に、アスタロトは少し考えてから眉をひそめた。城の魔法陣に引っかからない子供が行方不明になる。得体のしれない種族の子供、こちらの警戒心を解いて姿を消した。もし魔王や魔王妃、または周辺の誰かを狙う刺客だとしたら?


 子供の姿ならば、魔族は自分から攻撃しない。嫌な予感がした。子供を保護する魔族の習性を利用した、人族や侵入者の罠ならば、これ以上に効果の高い方法はない。疑惑に駆られて、気が急いた。


「ルシファー様」


 気をつけろと声をかけようとしたアスタロトは、少し先の芝の上に幼子を見つけた。召喚者であるアベルの後ろをちょこちょこと歩く子供は、小ざっぱりとした服に着替えている。サイズが合わないのか、ズボンの裾を摘まんで必死に追いかける姿は、気が抜けるほど微笑ましいものだった。


「いましたよ、あそこに」


「ん?」


 魔力による網を作って広げようとしたルシファーは、近づいたアスタロトに示された場所を食い入るように見つめ、隣のリリスの肩を揺らした。


「見つかったぞ」


「早いわね、ルシファー」


「アスタロトが見つけた」


 赤い目を開いたリリスの驚きに、けろりと状況を説明する。指さす先で子供は黒に近い紫色の髪を揺らして走っていた。裾を両手でつかんでいるため、転びそうになってアベルが支える。


「危ねえな」


 顔面着地の前に、両手で抱き上げる。アベルに子供を警戒する様子はなかった。カルンにも怯える様子はなく、懐いているように見える。


「なんだ、仲良しじゃないか」


 友達が出来て良かったと好意的に捉えるルシファーをよそに、アスタロトはまだ疑惑をぬぐい切れずにいた。自分を疑わない者には懐き、警戒心が強い相手には近づかない。悪く見れば、どこまでも疑いは深まるものだ。


「アスタロト、今は我慢してください」


 わかりますね? ルキフェルと一緒に顔を見せたベールが「泳がせる」と告げる。魔王軍の指揮権を持つ男の言葉に、アスタロトは無言で同意した。ルキフェルも疑っているのか、じっとカルンの後姿を見つめる。


 自分が作った魔法陣の出来は、誇れるレベルのものだ。あの程度の魔力しかない子供が簡単に通過できるものではないし、すり抜ける方法がないか検証中だった。プライドの高さは最上級のドラゴンは、縦に瞳孔が割れた目で獲物を見据える。


 剣呑な雰囲気を漂わせる彼らの空気をぶち壊しにする魔王は、軽い口調で再びかまど作りに戻った。隣のリリスも危機感は薄い。翼をしまわずにそのまま、土魔法を駆使する2人をよそに、大公達は互いの役割を果たすべく動き出した。


「ルーサルカ、カルンが見つかりましたので、一緒に迎えに行きましょう」


 自分を避ける子供に近づくため、アスタロトは義娘に話しかける。発見の一報にほっとしたルーサルカには悪いが、魔王を守るために必要ならば己の命も盾にする男は笑顔で思惑を隠した。手をつないで一緒に向かうルーシアの表情は硬い。


 侯爵という高い実力を誇る家に生まれた彼女は、騙し騙される世界の怖さをよく知っていた。カルンの言動のどこかに、違和感を感じているのだろう。優秀なルーシアの反応をアスタロトは見逃さなかった。ルーシアとの間で視線を交わし、いざというときはルーサルカを守るよう命じる。


 しっかり頷いたルーシアは、すぐに表向きの表情を取り繕った。ルーサルカを気遣いながら、手を繋いでカルンへ向かう。顔を上げたリリスは土を弄る魔法を継続しながら呆れ声を出した。


「みんな、神経質すぎるわ」

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