魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

699. 希少竜の物々交換

 相手が大公であろうと、配下と食事をする際はいろいろと配慮が必要だ。いつも同じ者とばかり食事を取れば、外の者から不満が出る。平時でもそうなのだから、お祭りで皆が集う時は余計に妬まれる。


 その暗い感情が向けられる先は、魔王自身ではなく……彼と食事をした周囲の者だ。大公クラスであれば問題はない。その程度の妬みや嫉みは常に付き纏った。跳ね除けるだけの実力もある。


 かつてリリスが拾ったばかりのルーサルカを食事に誘い、ルシファーはあっさり許可した。直後、アデーレが養女に欲しいと申し出た理由もここにあった。あのまま彼女を獣人系の家に養女として預けたら、精神状態はぼろぼろだろう。弱い者は強者に食い潰される運命にあるのだから。


 残酷な掟を、最強の名を持つが故にルシファーは理解できない。自分が選び許可して食卓を共にする者が被る危険が実感できないのだ。説明されても「そういうものか」と覚えるだけで、本当の意味で思い知ることはないだろう。


「前も申し上げましたが」


「前に聞いたならいい」


「よくありません」


 ルシファーの反論を、ぴしゃりと潰したベールが何故まずいのか説明した。呼ばれる者が偏ることで、贔屓があるのではと魔族に疑惑が広がったらどうするのか! そう力説したベールへ、ルシファーはにっこり笑った。


「問題はない。それならば、今日は中庭で食事をしよう。自由参加にすればいい」


 全員参加なら偏らないだろう? 無邪気に提案する魔王、賛成を表明して手を叩く魔王妃候補。ベールは言葉で伝える限界を感じた。


「……アスタロト、後は任せます」


「任せないで欲しいですが、放置もできませんね」


 何度も気が遠くなるほどの回数言い聞かせても理解しないなら、別のアプローチで切り崩すしかなかった。


「リリス姫、中庭や城門で食べ物を買ってきてください。私達も含め13人分です。ヤンが含まれるので、肉や魚を多めにしてくださいね。でも秘密の集まりなので、誰にも話してはいけません。守れますか?」


「うーん、話してはいけないのね? わかったわ」


 中庭で自由参加にしたら、あの人見知り傾向の子供はパニックになり逃げ出す可能性がある。強者である自分基準の魔王が間違った方向へ進むとき、修正するのは側近たる自分達の務めだった。


 自由奔放すぎてやらかす魔王の人気を陰で支えるのは、こうしたアスタロトやベール達の苦労なのだ。


 リリスは腕を組んだルシファーへお強請りを始めた。


「一緒に買いにいきましょう! そして秘密の食事会をするのよ。素敵ね」


「そうだな、秘密だから部屋から出たら口にしちゃダメだ」


 溺愛するリリスを使う作戦は、相変わらず効果が高い。それ故に使う場面と回数を管理しないと危険だった。アスタロトとベールで目配せしあい、ルキフェルも協力を約束する。本能で動く1名を除いた大公達の結束は、こうして強まるのだった。


「今のうちに準備をします」


 あたふたと侍従のベリアルを呼び、部屋の模様替えと家具の入れ替えを始める。この7日間で、執務室が書類の処理に使われる予定はなかった。ならば、休憩所を兼ねた控え室にした方がいい。


 決断の早い大公達が準備を終える頃、大量の食料を従えたリリスとルシファー、護衛のヤンが戻った。後ろにぞろぞろと食料を抱えたコボルトを従えての帰還に、先程の説教の効果が垣間見え……アスタロトは胸を撫で下ろす。


 控えめなノックがあり、翡翠竜アムドゥスキアスを連れたレライエが顔をみせる。子供が起きたことを伝えた。大量の食料を並べ終え、ぎりぎりセーフだ。


「食事にするから、僕が迎えにいくね」


 ルキフェルがいそいそとレライエを促して廊下に出た。背中にハゲのある翡翠竜に、にっこり笑ってお願いをする。


「ねえ、その鱗4枚欲しいんだけど」


「……知ってるでしょうけど、痛いんですよ。生え変わりの時期以外で剥ぐと、すっごく、すっごく痛いんですけど」


 同じドラゴンだから知っているルキフェルは気の毒そうにハゲを見るが、引き下がる気はなかった。


「ベールとお揃いの耳飾りを作りたいんだよね。僕の鱗と交換でどう?」


「っ! 瑠璃の鱗ですか?!」


 これぞ滅多に手に入らない高級品だ。青く透き通った鱗は、緑とは別の意味で人気が高かった。最終日用に作らせたレライエのドレスに、青い飾りは似合うだろう。宝物好きな婚約者の顔をちらりと見て、迷いながら頷いた。


「いいですけど、3枚以上くださいね」


「え? 4枚ずつで交換するよ」


 別にレートは同等でいい。ルキフェルが当たり前に返した瞬間、アムドゥスキアスは目を潤ませて大きく頷いた。


「ありがとうございます! 交換します」


 大公と元大公候補のやりとりを見ながら、レライエは余計な口を挟まず見守った。ハゲた翡翠竜の背中を撫でながら、また剥ぐのかと彼の我慢強さに感心する。


 赤系のオレンジ竜であるレライエは、心の中で「希少竜同士って、物々交換が主流なのね」と盛大な勘違いをしていた。後にこの勘違いで、婚約者に泣かれることになるが、それは随分先の話である。

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