魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

695. 判定待ちになりました

 執務室の開いたままの扉の向こうには、なぜかベルゼビュートが寝ていた。長椅子に横たわる彼女の上に、柔らかそうな毛布が掛けられており、熟睡中のようだ。


 仕方なく別の椅子に子供を抱っこして座らせ、すこし先の椅子に座ろうと手を離した。途端に、子供は大きな声で名を呼ぶ。


「るか! るかぁ」


 これではベルゼビュートが起きてしまう、慌てたルーサルカは子供の手を握った。他に方法が思いつかなかったのだ。


「しーっ、静かにしてね」


「……もう起きてるからいいわよ」


 苦笑いしたベルゼビュートが身を起こし、ルーサルカと手を繋ぐ子供を流し見て、すぐ二度見した。びっくりした様子で、子供をじっくり観察して確かめてから、口を開く。


「え? 探してた子? 凄いわ、ルーサルカ。よく見つけられたわね」


 素直な称賛が擽ったくて、ルーサルカは照れて顔を伏せる。椅子に座り足をぶらぶら揺する子供は、冷たい指先を伸ばして彼女の頬に触れた。


「どうしたの?」


「こっち、見て」


 独占欲か嫉妬のような言葉を吐いた子供に、ベルゼビュートは肩を竦めて毛布をしまった。


「随分と懐いたのね」


「見つけただけなのですけど」


 手を離そうとすると握るので、結局子供を抱き起こして椅子に自分が座ってから膝に乗せ直した。これなら離れると心配しないで済むだろう。


 話を聞きたいと連れてきたが、この子供を怖がらせたくなかった。知らない人がいる場所に連れてきたのは自分なのだと、責任感のような思いもある。


 他の少女達と色の系統を合わせ、青紫のドレスを選んだルーサルカは、肩紐を直しながら膝の上の子供を覗き込んだ。触れる許可は得ているが、一応重ねて確認する。


「ねえ、髪に触れてもいい?」


「うん」


 無邪気に頷く子供は、わずかに足の先を揺らしながら、扉の方へ目をやった。すると足音が聞こえて来る。獣人族だが獣耳のないルーサルカより、子供の方が聴力は優れているらしかった。


「ルカ、見つけたの!?」


 駆け込んだルーシアの声と、続いてレライエが近づく。彼女らが近づくと、子供は顔をしかめてそっぽを向いた。


「おやおや、私たちは嫌われたみたいだ」


 年長者の余裕なのか、レライエの腕に抱かれた翡翠竜は笑って婚約者の手を叩いた。注意を引いてから椅子に座るよう促す。おかげで、怖がる子供に駆け寄る失態を免れた2人は、距離を置いて椅子に腰掛けた。


 直前にベルゼビュートに挨拶をして、渡された通信箱に魔力を流す。すでに侍女による連絡網が走っていたが、重ねて連絡を入れた。


「ふぁあ……眠い。あたくし、もう少しだけ」


「いっそ永眠して構いませんよ」


 戻ってきたアスタロトの冷たい声に、ベルゼビュートは飛び起きた。慌てて立ち上がり、いそいそと奥の椅子に逃げる。


「すでに揃っていましたか。そちらの子供が?」


 ベールとルキフェルが戻り、伝言を受けたシトリーも入室する。みんなが興味深そうに見つめるため、子供はルーサルカの陰に隠れるようにスカートの上で向きを変えた。


 左手のサンダルは手離さない。この場に当事者3人が居ないため、アデーレが戻るのを待つことになった。


「それがリリスのサンダル? ふーん」


 ルキフェルの口から出た名前に、子供はぴくりと反応した。リリスは最初に話しかける時に名乗ったため、聞いたことがある響きに周囲を見回す。


 黒っぽい紫の髪に手を置いたルーサルカは、自分の収納からブラシを取り出した。尻尾の手入れに使う2本のブラシを腿の脇に置いて、粗い方から使い始める。


 根気よく何度も梳かせば、徐々に解けて柔らかくなってきた。最後に仕上げ用のブラシで艶を出して整える。大人しくじっとしている子供は、小さな声で呟いた。


「あり、がと」

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