魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

693. お祭りは公共事業?

 ルシファーと腕を組んだリリスは、懐かしい屋台に目を輝かせた。


「ルシファー、あれ! あれが欲しいわ!!」


 ぴょんぴょん跳ねて主張する先に、ピンクや白などパステルカラーの袋がぶら下がる店があった。かつて買ってあげた記憶に、ルシファーも頬を緩める。そちらへ足を進め、途中で出会った子供を数人誘った。


 くるくると巻き取られる綿飴の屋台の前で、連れてきた子供達とリリスの分を合わせて9つ注文する。魔王ルシファーの来店に目を見開いた店主は、すぐに「10年振りですね」と懐かしそうに目を細めた。どうやら同じ店だったらしい。


「ありがとう」


 受け取った綿飴の袋を先に子供達に譲り、リリスは手を振って彼らを見送る。代金を払い終えたルシファーに、袋に入れていない1本をおまけで渡した店主は「どうぞ、他のお店もおまけしてるでしょう」と笑った。店主同士の噂は早いようだ。ルシファーや大公達がお金を使うために出歩くのは、魔族なら皆知っていた。


 今日は魔王城の城門付近に店を出した屋台を回る。明日以降は城下町へ移動するのが恒例だった。即位記念祭が行われる7日間は、城下町も夜通し灯りをともして盛り上がる。子供達も多少の夜更かしを許され、花火などのイベントも予定されていた。


「遠慮なくもらおう」


 もらった綿菓子を手に、リリスはピンクの袋を持って店を後にした。少し歩くと持ち物を交換する。収納空間へピンクの袋をしまうルシファーの隣で、リリスは空の雲に似た白い綿菓子にぱくりと噛みついた。口周りや髪の毛についてしまうが、気にしない。


 屋台の食べ物は、城で供される晩餐と違うルールがあるのだ。手に持った串にささる食材に直接かぶりつく。たとえ魔王や魔王妃であろうと、民と同じ食べ方で同じ味わい方をするのがマナーだろう。


 髪や服が汚れても、魔法による浄化が使えるのだ。気にする必要はなかった。ピンクの紅が塗られた唇で、ぱくりと綿菓子を齧る。口の中で溶ける懐かしい味にリリスが笑みを浮かべた。


「お姫様、こっちはどうだい?」


「あら、美味しそう!」


 串に刺した肉を前に、ヤンがじゅるりとヨダレを垂らす。慌てて舌舐めずりして誤魔化すが、苦笑いしたルシファーが皿いっぱいに買ってやった。魔獣系の種族が来たときのために、皿による準備もされている。ここら辺の対応力は、魔族ならではだった。


「わ、我が君。我はそのような」


「祭りの日くらい、いいだろう。ヤンにはいつも世話になっているからな。それともこの肉では不満か?」


 くすくす笑いながら、2人でしゃがみ込んで皿を差し出す。遠慮していたヤンも、香辛料がまぶされた肉に齧り付いた。


 小さな精霊族がふわふわと空を舞いながら、時折花びらを撒く。これは精霊による自主的な行動だが、魔王城からの依頼も兼ねていた。仕事として精霊に頼むことで、通貨を持たない彼らにお金を渡して使わせるのだ。


 祭りを楽しむ資金を得られるため、精霊達も積極的に参加してくれた。魔獣も同様に仕事が与えられている。迷子の発見と保護、落とし物の発見などだ。意外と財布や小物を落とす酔っ払いも多く、はぐれた子供も含め、視線の位置が低い魔獣に最適の仕事だった。


「魔王様、何か落とされましたぜ」


 くいっと裾を咥えて引っ張る狐系の魔獣に、首をかしげて振り返る。


「ん?」


「この飴が落ちておりやす」


「あ、ああ。ありがとう、助かった」


 さきほど寄った店の袋から、飴細工がひとつ転げ落ちたらしい。受け取って、他の荷物と一緒に収納空間へ放り込んだ。その手で、そのまま金貨を掴んでお駄賃として渡す。


「こんなにいいんですかい?」


「ああ、祭りを楽しんでくれ」


 礼を言って去っていく狐に、リリスは無邪気に手を振った。金貨を渡す間に許可を得て、さりげなく狐の尻尾を堪能したリリスはご機嫌だ。


「あっちのお店も見たいわ」


「わかった。ヤンが食べたら行こうか」


 地面に片膝をついたルシファーの膝に、当たり前のように抱き抱えられて座るお姫様――微笑ましい光景に、通り過ぎる民の表情も柔らかかった。

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