魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

691. 屋台巡りは立派なお仕事でした

 ルシファーと腕を組んだリリスは、出会う種族に分け隔てなく笑顔を振りまき、手を振り挨拶に応える。その姿勢は幼女の頃から変わることなく、少女になっても継続されていた。


 後ろを歩くイポスは護衛であり、同時にリリスの言動を近くで見守ってきた存在でもある。故に、彼女が行う日常の言動が、どれほど難しいかをよく知っていた。誰でも得手不得手があり、好みがある。鱗が苦手だったり、角が好きだったり……リリスはそういった好みを前に出すことがなかった。


 石の肌や泥に汚れた鱗の手、白い子も黒い子も。誰が相手でも公平に手を触れ、笑顔を向ける。母なる魔の森が生んだ少女は、人族以外のすべての種族は兄弟姉妹と同じ感覚なのだろう。


「リリス様、こちらをどうぞ」


「ありがとう」


 屋台で差し出された苺飴を嬉しそうに受け取る。ルシファーが代金を渡そうとして、受け取らずひと悶着あったが……最終的にリリスが間に入って仲裁した。民にしてみたら話しかけるチャンスに商品を使っただけ、ルシファーは品物の正当な対価を渡したい。どちらも満足させる方法としてリリスが提案したのは、予想外の方法だった。


「苺飴はとても美味しいわ。だから、ルシファーは私に11個買って。あなたはその代金を受け取って」


 妙に具体的な数字なので、ルシファーはすぐに意図に気づいたらしい。周辺で遊んでいた子供達を手招きした。声が届く範囲にいた子供は10人――彼らに1つずつ苺飴を振る舞う。残った1つを後ろで控えるイポスに差し出した。


「はい、イポスの分よ」


「ですが」


「毒見も護衛の仕事だぞ」


 すでにリリスが口を付けた後なので順番は逆だが、理由をつけるルシファーが笑って促す。受け取って口に入れると、リリスは嬉しそうに笑った。それから店主に11個分の料金を受け取らせ、自分の食べていた飴を指さす。


「10個以上買ったから、これはでもらうわね」


「は、はい!!」


 店主は素直に代金を受け取った。ルシファーも店主も面目が立つし、子供達はこの幸運に大喜びで礼をいって走っていく。くすくす笑うリリスにルシファーが何かささやき、今度は別の店に立ち寄った。


 似たような行動を繰り返しながら、消費を回していく。どうやらルシファーが屋台を冷やかすのは、民との触れ合いだけが目的ではないようだ。魔王や大公は長寿であることもあり、大量の資産を持っていた。それらは使う機会も少なく、こういった祭りの場で大きく吐きだす必要があるのだ。


「イポスも公爵家の跡取りだ。よく覚えておくといい。動かさなければ金は淀んで死ぬ。使ってこその金だ。多少の蓄えは必要だが、集め過ぎると街や民を苦しめる結果になりかねない」


 いずれ公爵領を継ぐ実力者であるイポスへ、貴族としての心得を説明しながらルシファーは周囲を見回した。待ち合わせした者がそろそろ来る予定なのだが、道に迷ったか知り合いに呼び止められたか。遅れているらしい。


「あ、魔王様!!」


 大きく手を振って駆け寄る人物は、人懐っこい笑みを浮かべて……草原の途中でフェンリルに踏まれた。さすがにいつものサイズは邪魔になるため、牛程度まで小型化したヤンは、見知った青年に挨拶がてら背を叩いたのだ。青年が非力なことを忘れており、顔から着地した。


「我が君、申し訳ないことをしてしまいました」


 しょんぼりしたヤンが、気絶した青年の襟を咥えて引きずって運ぶ。祭りなのでそれなりに着飾った彼は、あっという間に泥だらけになった。


「あ、ああ……うん。ひとまず綺麗にするか」


 横たえられた青年に魔法陣で浄化を行い、見られる姿に戻す。何度も顔を合わせたことがある彼は、ヤンに顔を舐められて飛び起きた。


「うわぁ! って、え? なに、これ」


 状況が飲み込めない叫びに、イポスはくすくすと忍び笑いを漏らす。顔を真っ赤にして飛び起きた彼は、恥ずかしそうにイポスへ誘いの手を差し出した。

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