魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

689. 重要な仕事があります

 即位記念祭の間、ルキフェルの手によって編まれた特殊な魔法陣が稼働している。登録された魔力以外が感知されれば、すぐに一番近い距離の大公に通知が届く仕掛けだった。


 現時点で通知を受け取った大公はいない。全員が同じ部屋にいるため、通知があれば気づくはずだった。


「変ですね」


「僕も魔法陣の演算やり直したけど、異常はないよ」


 アスタロトが問題提起したが、ルキフェルも演算を終えた魔法陣を手に首をかしげた。何も異常はない。しかし侵入した子供がいる事実は間違いなかった。


 少なくともリリス、イポス、アデーレの3人が全員騙されるような幻術は考えにくかった。ならば実際に歩いていたという答えが導き出されるが、そこでまた疑問に打ち当たった。


 本物の魔族なら、絶対に魔力が反応する。反応しないほど魔力が弱い人族のような種族だったら、そもそも入り込む方法がない。目撃情報通り、淡いピンクの肌色をした者はかなり魔力量が多いはずだった。


「とりあえず、探しに行くのが早いよ。ここで会議しててもしょうがない。今日は挨拶だけでしょう?」


「魔王軍を入れると騒ぎが大きくなりますから、我々だけで探しましょう」


 ルキフェルの提案に、ベールが賛同した。考え込んだアスタロトも異存はない。侵入者がいるなら見つけ出すしかないのだ。


「あたくしは中庭を担当するわね」


 にっこり笑って退室しようとしたベルゼビュートの足を、黒い手が掴む。また引きずり込まれる恐怖に震える美女へ、アスタロトが影より黒い笑顔を向けた。


「城内の探索ですよ? なぜ中庭へ向かうのか、お伺いしても?」


「え、あ、ま……間違えたのよ。そう間違えたわ! 建物の奥の方へ行くわね」


 足首を掴む冷たい黒い手を振り払い、ベルゼビュートはヒールの音を響かせながら逃げ出した。中庭で酒を飲むつもりでいたが、見透かされた以上、中庭へは近づかないだろう。


 同僚のサボり癖をへし折り、アスタロトは地図を取り出す。城内の見取り図を元に、手分けして回るよう手配した。


 城の奥、普段使われていない客間がある方角をベルゼビュートが担当。中庭から見て右側をベールとルキフェル、左側をアスタロトとアデーレ。中央部分を少女達4人が回ることになった。


 リリスにサンダルを履かせたルシファーは、さりげなくリリスの足元に座っている。よく見ると床に直座りなのだが、本人は満足げだった。


「オレ達も手伝おうか?」


「いえ、陛下とリリス姫は重要なお仕事があります」


 全員が忙しく子供探しをするのなら、是非とも手伝おうと名乗り出たが、ベールにあっさり首を横に振られた。不思議そうな顔をするルシファーの記憶では、午前中の挨拶を済ませれば、午後は予定がなかったはず。


「重要な仕事?」


「祭りに集まった民に姿を見せて、声をかけることです。滅多に魔王城へ参上できない種族も多く来ています。そういった者達は、魔王陛下のお姿を拝見したいと願っているでしょう。仕事モードでお願いします」


 ひらひらと手を振り、早く中庭や城門前へ顔を出すよう促すベールに頷き、立ち上がった。そこで初めて、ルシファーが床に座っていた事実に気付いて大公達が呆れ顔になる。


「それなら、民に声を掛けに行こう。リリス……おいで」


 エスコートの手を差し出して待つルシファーへ、リリスは素直に手を乗せた。長椅子に乗せていた足を下ろし、ドレスをひらりと揺らして隣に立つ。


「イポス、護衛を任せます。途中でヤンを合流させますから」


 アスタロトの命令に、頷いたイポスがリリスの後ろに立った。定位置で見守る態勢に入った護衛を振り返り、リリスはイポスの金髪に触れる。解かれた手に苦笑するルシファーだが、次のリリスの動きで意図を察した。


 見守るルシファーの前で、リリスはイポスの髪に手を伸ばした。

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