魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

670. 爆発癖がついたようで

 ルキフェルが握りしめた紙には、大量の目撃証言や奇妙な現象が記されていた。即位記念祭直前の忙しさを知る彼が持ち込んだのなら、急ぎの案件だろう。


 人がいない部屋に突然灯りがついた。作業中のドワーフが足のない女性を見た。掃除に来た侍女が首筋を冷たい手で撫でられ、振り返ると誰もいなかった。並べられた事象は、異世界で心霊現象と呼ばれるものだが、この世界にその概念はない。


「気のせいじゃないか?」


「僕もそう思った。だから昨夜、この部屋泊まったんだけど」


 自ら検証しようとする姿勢は素晴らしい。しかし話をするルキフェルの顔色は悪かった。青ざめたルキフェルが、ぽつりぽつりと昨夜の状況を語りだす。


「まず、用意したお茶が一瞬で凍ったんだ。魔法も魔法陣もないのに、だよ? 意味が分からなくて、魔力を感知するための網を張ったら、後ろから首筋を冷たい物が撫でた。たぶん人型の種族の指だと思う。振り返っても誰もいなくて、ベールを呼んだのに反応しないんだよ。封鎖されたと思って部屋を出ようとしたら、扉が突然燃えて……でも瞬きしたら炎は消えた」


 混乱が残っているらしく、普段の報告と違って支離滅裂だ。ルキフェルの表情はこわばっていて、嘘や錯乱状態でないのは確かだった。


「……よくわからないな」


「僕が一番わからないよ」


 自分でも困っているのだろう。ルキフェルが眉を寄せて唇を尖らせた。幼児姿の時と同じ癖で、指を噛む。思い通りにならなくて悩んだ彼が、良く見せた癖だった。


「ベールに相談したのか?」


「うん」


 こんな不安定な状態のルキフェルを良く放置したものだと、ルシファーが首をかしげながら唸ると、予想外の返事が聞こえた。


「今、上の階で調べてる」


「……いま?」


「そう、今」


 大きく溜め息をついたルキフェルに、ルシファーは考えるのをやめた。現場で確認した方が早いし、同じ結論に至ったベールが上にいるのなら、その答えを待った方が……。隣室のリリスも気になるし、こういった事例に対応できそうなアスタロトを連れてこなかったことも悔やんだ。


「アスタロトを呼んで……っ!?」


 ドン! 爆発音が城を揺らす。


 対策を練ろうと提案する前に、魔力が爆発するのを感じて結界を張った。常時発動の結界を広げ、隣室もまとめて守る。反射的にルキフェルを小脇に抱えて、引きずるようにドアを開けた。


「リリスっ!」


「ルシファー、こっちは平気よ」


 即座に返った声にほっとする。リリスは上を睨みつけ立ち尽くす。その足元でお飾りを守るルーサルカ、青ざめたルーシア、翼を広げて物理障壁を作るレライエがいた。シトリーの姿が見えないと眉をひそめれば、彼女はドアを開けて出入口を確保している。閉じ込められる状況を考慮した動きだ。


「何があったのですか」


 アスタロトも結界を展開したらしく、執務室内に複数の結界が乱立している。よく見れば、翡翠竜アムドゥスキアスが少女達を覆う結界を張り、リリスも独自に結界を発動していた。少女達も自分を守る分は展開したし、イポスに至っては上部へ盾となる魔法陣を作る。


 咄嗟の判断にしては優秀だった。


「ルシファー様、そろそろルキフェルを離した方がいいですよ」


 アスタロトの指摘に視線を下ろすと……急いでいたせいか首を絞める形でルキフェルを引きずっていた。これはベールにバレたら殺される。慌てて腕の力を緩め、咳き込むルキフェルの背を撫でた。


「悪かった」


「げほっ……いい、けど……」


 苦しかったルキフェルの潤んだ水色の瞳が、不安そうに揺れた。上を見上げた仕草で思い出す。


「アスタロト、上にベールが居た! 確認に」


「私が行ってまいりますから、ルシファー様はここで結界を維持してください」


 途中で言葉を遮り、アスタロトは廊下の様子を確認する。右往左往する侍従やドワーフが騒がしいが、建物全体が崩れるような事態は免れたらしい。状況を確認しながら、アスタロトは足早に階段を上った。

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