魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

668. ブリーシンガルの首飾りの効力

 ブリーシンガルの首飾り――装着者の魔法を2倍に増強する効果が認められる装飾品だ。魔力量が少ないと負荷が大きく疲れるため、呪いはないが危険物と判断されてきた。ルシファーが保管していたのはそのためだ。彼自身は必要としない能力だし、収納に入れたまま忘れられた程度である。


 ルシファーの魔王就任を阻もうと最後まで戦った戦士の首を落とした際に得た宝物だが、実はリリスの髪に絡めて使ったこともあった。銀鎖が美しい音を奏でる首飾りは手直しして、魔王妃用ティアラに活用されるはずだった。


 あれこれと騒動が起きたこともあり、全員が失念していたのだ。


「今からティアラの変更は難しいでしょう」


 とにかく時間が足りない。溶かして作り直すにしても、細かな紋章の細工が追いつかないだろう。唸るアスタロトと職人の横から、ルキフェルがひとつ案を出した。


「紋章や百合はそのままで、別の飾りにしたら?」


「全体のデザインが……」


 バランスが崩れてしまう。新しい飾りをつけるのは名案だが、あまり周囲を飾り過ぎるとティアラ自体が目立たなくなる恐れがあった。折角の魔王妃を示すお飾りが台無しだ。


 顔を突き合わせて意見交換する彼らの横で、ルシファーが無造作に首飾りを分解し始めた。本職ではないこともあり、手荒に銀鎖を千切っていく。


「ルシファー様っ! 何を」


「リリスがこの音を気に入っていたし、ティアラとは関係なく髪飾りにしたらいいかな? と」


 軽い口調で自分勝手な意見を吐き出す魔王に、アスタロトは額を押さえた。しかし職人は手元を食い入るように見つめた後、ぽんと手を打つ。


「それはアイディアです! 髪飾りとして仕立て直しましょう。音が響くよう髪に絡めるリボンのような使い方をして、最後にティアラを乗せる。そのために細く短く加工して……だが姫様は髪が長いのでしたな」


 加工方法を悩み始めた職人に、ルシファーが「半分だけ短くしよう」と許可を出した。大量の鎖が肩からデコルテを覆う首飾りは、中央の大きな宝石が目立つ。しかしあくまでも本体はこの銀鎖だった。魔力を増幅し、魔法を倍の威力に高めるのは鎖の効果なのだ。


「鎖は沢山あるんだから、半分は普段使い用に長くして……残りは正式な場で髪を結った際に使えるよう短く加工してくれ」


「承知しました」


 ブリーシンガルの首飾りは呪われた魔道具扱いされてきたが、思いつきで分割されることになった。細い銀鎖を千切ったルシファーは満足げだが、その非常識さにアスタロトは溜め息をつく。隣で目を見開いて状況を見守ったルキフェルは、くすくすと忍び笑った。


 常識という鎖を無視するルシファーの判断は、職人にとっても目から鱗だ。由緒ある首飾りを大切に守るのではなく、使いづらければバラして活用する。簡単だが誰も行わなかった手法に、スプリガンの尊敬の眼差しが降り注ぐ。


「魔法倍増の効果が消えそうですね」


 有難みがなくなったとぼやくアスタロトの耳に、意外な正論が届いた。


「リリスの雷が倍になったら、オレでも怖いぞ。ちょうどいいじゃないか」


 魔王に次ぐ魔力の持ち主が落とす雷は強力だ。それが倍増したら……確かに想像するだけで怖ろしい。悪気なく魔法を放つリリスだからこそ、余計に危険な首飾りだった。前回取り出した際は、この銀鎖の音が涼やかで彼女に似合うと思ったが、効力を考えるとかなり危険な行為だったと反省する。


「……そういわれると、そうですが」


 複雑そうに呟いたアスタロトが、バラバラになった銀鎖を指先でしゃらりと鳴らしながら眉をひそめた。


「なぜでしょう。同意するのが癪なのです」


「僕もアスタロトの気持ちがわかる」


 ルキフェルが無邪気に同意したことで、ルシファーは何も言わずに肩を竦めた。

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