魔王様、溺愛しすぎです!
653. お叱りを受けました
「事情はわかりました」
呆れたと滲ませるベールの声に、ほっとした顔でルシファーが肩の力を抜く。しかしアスタロトがぴしっと厳しい一言を足した。
「許したわけではありませんよ」
「……すまない」
とりあえず謝る。魔王としての威厳なんて、側近2人の怒りに比べたら、吹けば飛ぶ軽さだった。昔から親のように構い、育て、感情や言葉を教えてくれた彼らに、ルシファーは頭が上がらないのだ。
芝の上に正座させられたルシファーの隣で、リリスも大人しく座っている。正座からぺたんと両足を左右に崩した姿勢だ。後ろに控えるイポスが「足は痺れていませんか」と気遣い、リリスが「平気よ」と返した。
足が痺れているのはお姫様ではなく、隣のルシファーだ。もう痺れを通り越し、痛みに変わっていた。ちなみにリリスがいる左側ではなく、右斜め後ろでルキフェルが膝を抱えて拗ねていた。ベルゼビュートも正座して、痺れた足を指先でもじもじと刺激して誤魔化す。
主犯とみなされた4人以外にも、アベルが巻き込まれた。アンナが描いたファウンテンの絵を基に、巨大な設計図を作り上げたのだ。ドラゴンがすっぽり入るサイズがいいと進言したのも彼である。ここで共犯というレッテルが貼られた。
作り上げた設計図に、ルキフェルが魔法陣を組み込んだ。チョコレートが滑らかに流れて循環するよう、精密に組み上げた魔法陣は傑作だ。この時点でルキフェルも、立派な共犯扱いとなった。ルシファーに言われるまま、各種族に通達を出したベルゼビュートも同罪だ。
「だが、民のために娯楽をもたらすのは……王としての務めだぞ」
なんとか反論を試みるルシファーの痺れた足に、アスタロトが足を乗せて力をかける。しっかり踏まれて悶絶する魔王を笑う者はいなかった。次は自分の番かもしれないと怯えながら、目を逸らし声を殺す。
「王の務め? 何を都合のいいことを」
「……ご、ごめんなさい」
今度こそ本気で謝った。ルシファーを慰めるように、踏まれた爪先をリリスが撫でてくれる。しかし痺れているため、ルシファーはさらに苦痛を味わうことになった。愛情は時として鞭となる。
「命令だったのよ……」
「黙りなさい、口を開く許可は出していません」
必死で訴えるベルゼビュートを、一刀両断したベールだが、拗ねたルキフェルを心配そうに見つめる。愛し子には甘いベールが口を開く前に、アスタロトが先に罰を言い渡した。
「作って告知した以上、仕方ありません。カカオ豆祭りは行いましょう」
「い、いいのか?!」
ルシファーが安堵の声を漏らすと、ぴしゃりと釘をさす。
「魔王城の告知ですから、嘘にするわけに行きません。ですが責任は取っていただきます」
「「「責任……」」」
ごくりと喉を鳴らして唾を飲んだルシファーに、リリスとアベルがハモった。まだ稼働しない魔法陣つきファウンテンを振り返ったアスタロトが、にっこりと笑う。その表情の恐ろしさを感じ取ったリリスがそっと目を逸らした。
逸らし損ねたルシファーが肩を揺らし、ベルゼビュートは悲鳴を上げて両手で目を隠した。アベルは事情がわからず、きょろきょろと周囲の反応を窺う。
「必要となるカカオ豆の準備は、全員で分担して頑張っていただきます。もちろん必要なもの、すべてですよ?」
黒卵と違って買ったら終わりではなかった。まずは実を収穫し、種を取り出し、発酵、乾燥、焙煎……さらにカカオマスを加工して液体チョコレートにしなければならない。多少面倒臭いが、魔法があれば何とかなるだろう。調理経験がないルシファーは軽く考えて頷いた。
リリス、ルキフェル、ベルゼビュート、アベル、この場で叱られる全員が、料理の経験はほぼゼロの素人だ。そのため簡単に了承した。
「イフリートの貸し出しはしませんから、くれぐれもお気をつけて作業をなさいませ」
アスタロトが満足げに締めくくったことで、ルシファーの中に疑惑が広がる。おかしい。この程度の罰で許す男ではないはず……しかし隣のリリスがにっこり笑って「よかったね、ルシファー。もうアシュタは怒ってないわ」と告げたことで、面倒な考えを放棄する。
彼らが後悔するのは翌日のことだった。
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