魔王様、溺愛しすぎです!
652. 加工の目途がつきました
「素敵、やっぱり魔法はいいわ」
3人そろって魔力操作から学んでいる召喚者達は、ようやく魔法の初歩に入ったあたりだ。魔族であればほとんどが魔法を無意識に使う。子供の頃から「火が点けばいいのに」と願って発火したり、「水が欲しい」と望んで水浸しになった経験があった。
魔力自体が生命力と同意語である魔族にとって、呼吸と同じように自然な形で魔力を体内循環させる。その操作を人族である召喚者達に説明するのが難しかった。ルキフェルにとっても「呼吸の仕方を説明して欲しい」と頼まれても、困惑するばかりだ。
彼らの体内に外部から魔力を流すことにより、ようやく感覚が把握できるようになったアンナ達にしたら、異世界で数ヶ月かかる工程を1日で終わらせる魔法は「すごい」の一言に尽きた。
「うーん、香りがイマイチ」
ルキフェルは納得していない。理想が高いため、研究を始めるとあれもこれもと望み過ぎて、最終的に到達地点を見失うタイプだ。ベールが現実主義者で、実用性を見極めて研究に歯止めをかけるため、よいコンビだった。
「確かに少し香りが足りませんね」
出来上がったカカオマスに、顔を近づけたベールが同意する。黒卵の中身と比べると、どうしても香りが足りない。しかしイフリートが匂いを確認し、砂糖や黒卵の白身を混ぜて加工し始めた。余計な発言をしない職人タイプなので、何を考えているかわかりづらい。
炎の精霊のため、下から熱をかけて温めながら混ぜる操作はお手の物。少しすると香りが立ち始めた。
「あ、チョコレートの香りがするわ」
リリスが大喜びでボールに近づく。金属製のボールの中は、イフリートがヘラで丁寧にチョコを混ぜていた。
「風の魔法は使わないの?」
プリンを作るときに泡だて器がわりに風の魔法を使うイフリートだが、リリスの疑問に首を横に振った。さすがに無言はまずいと考えたのか、作業の手を止めずに話し始める。
「勢いよく混ぜると艶がなくなります。チョコレートの美しい滑らかな艶は、手でゆっくりかき混ぜることで生まれますから」
「さすがイフリートね。詳しいわ」
にこにこと笑顔で話を聞いてくれるリリスは、イフリートにしても可愛い弟子だった。魔王妃候補であるのはもちろんだが、お菓子作りに興味を持った幼女の頃から、一生懸命に覚える姿は好感度が高い。そのうえ、料理長のイフリートを「料理の上手なおじちゃん」と呼んで慕ってくれるため、リリスが好む茶菓子を作り置きするのが日常だった。
お菓子を受け取った時の嬉しそうな顔や、食べた時の「美味しい」の一言がイフリートのやる気を引き立てる。お陰で料理にも力が入り、ここ数年は料理の腕も各段に上がった。創意工夫を、リリスが素直に褒めてくれるのが大きな要因だ。
「ふむ……イフリートは博識だな」
隣で覗き込んだルシファーが、さらりと流れた髪を慌てて押さえた。すると手を伸ばしたリリスが後ろで髪を三つ編みにし始める。手が届く範囲なので、首の下あたりから緩やかにざっくりと三つ編みが出来上がった。
「ルシファー、リボンある?」
「これでいいか?」
赤いリボンを手渡す。くるくる巻き付けてから毛先が解けないよう結んだ。昔は縦結びしかできなかったリリスだが、今は上手にリボンは横に結ばれている。
「木の実チョコがたくさんできたら、大きな噴水みたいなの作りたいわ」
アンナから聞いたチョコレートフォンデュファウンテンをやってみたい。お姫様の無邪気なお願いに、ルシファーは快く頷いた。
「そうだな。アンナ達に頼んで設計図を作ろう」
カカオ豆の加工方法が確立しつつある今、魔王と姫の暴走は留まるところを知らない。ストッパー役の大公2人が即位記念祭の準備で忙しい間に、さっさと準備を進めよう。悪だくみに関しては知恵の回るルシファーが、ベルゼビュートを手招きして命じた。
「カカオ豆祭りの告知をして来い。できるだけ多くの種族を呼ぶぞ」
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